10人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
馬鹿馬鹿しい。実にばかばかしい。
この飴を食べると足が速くなる、なんて
そんなわけないだろ。
なんなら、親に言われ続けた「にんじんを食べると足が速くなる」の方がずいぶんと信憑性があるものだ。
馬だから、な。
「いや、マジだって。俺が予言してやる」
クラスで人気者の早川がそう言った。
奴はよく予言をする。
中学一年生の僕らの年頃はこういうスピリチュアルなことに敏感で、霊とかなんとか。
だから、予言をするから奴は人気者なのか。人気者だからその予言が注目を浴びるのか。
そのあたりはよくわからないけれど、奴はそう言ってなぜか僕にその飴を差し出した。
クラスに馴染めていない僕はまるで空気のような存在だったので、それが不思議で、嬉しくもあり、少し気味が悪かった。
掌の上に乗った、オレンジ味にしか見えないそれをじっと見つめる。
そう明らかに躊躇っていると、「なになにー」と鈴を転がすような声が聞こえた。クラス一可愛い広瀬さんがすぐそこにいてびくりとする。
面白そうだと思ったのだろう。
「ねぇ、一生のお願い!」と両手を合わせて上目遣いをし、僕にニコッと微笑んだ。
その拍子に、僕はそれを口に入れてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!