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どっと周りにいた数人の歓声が上がる。
口に入れた甘やかなそれはオレンジではなくて、不思議な味がした。
早川の隣にいた木城に「さぁ、頑張れよ」と強引に背中を押されて、僕はスタートラインに立った。
今は体育の授業中だ。
生徒から鬼教師と恐れられる佐熊先生がこちらを険しい顔で睨んでいる。
だいぶ怖い。
にも関わらず、女子達は広瀬さんを囲って「美優がお願いしたからじゃん」とかキャッキャしている。
別に彼女と早川がいい感じなのは僕も知ってるし、だから広瀬さんに言われたからとかじゃないんだけど。
単にびっくりしただけだ。
そんなことを思いながら舌で飴を転がしていると、中からすうっとメントールのような爽快感がした後、パチパチ弾ける感覚がして、何かがとろりと溢れ、すぐに溶けてしまった。
……食べてしまった。
まぁ別に、食べたって死なんだろう。
――このとき僕は、少しだけ思ったのだった。
もしも本当に速くなったら、って。
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