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季節は深まり、夜はますます冷えるようになってきた。擦り切れた単衣をさすりながら、なつは今日も社へ向かう。
毎夜毎夜、冷たい石畳の上を歩き続けているせいなのか、足はひび割れ、草鞋を履いていても酷く痛む。それでもこれは、止めるわけにはいかない。
ぺたり。
ひやりと冷たさが足裏を刺すが、往復していくうちに慣れていくものだ。なつはもう、それを知っている。
どうか、どうか。
おとうちゃんを助けてください。
わたしにできることは、なんでもします。
貝殻が指を差して血が流れ。
ひび割れた足は、地面に血の跡を残す。
昼間も懸命に働いた身体はいうことをきかず、時折ふらりと転んでしまう。
細かな砂利が肌を刺し、すりむけた膝小僧からは新たな血が流れたけれど、これぐらいは平気だ。
大丈夫、平気だ。
はじめのころは泣いたりもしたけれど、いつのまにかそれもしなくなった。
慣れてしまえば、どうってことはないのだから。
集まった小さな貝殻を袋に仕舞い、大きな貝殻を取り出して並べる。
十揃ったので、今日のお参りはおしまいだ。
ところで、百度参りとは、どれほどの月日を費やすものなのだろう。
悲願を達成するまでは、止めてはならぬものだと思っているが、何をもってして「達成」といえるのか、なつにはよくわからない。
父が元気になるまで?
元気になるとは、具体的にどのような状態だろう。
昔のように、仕事ができるようになること?
けれど。
そんな日、来るのかなあ……
ぽつりと漏らした声は、静かな界隈に木霊した。
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