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己が言ったことに蒼然とし、ちからが抜ける。石畳の上に腰を下ろしたまま、なつは立ち上がることができない。
地べたから来る冷気は身体を通してこころを冷やし、震わせる。
どうか、どうか。
****を助けてください。
幾度となく唱えてきた言葉は、いつしかすり替わっていなかったか。
助けてください。
どうか、どうか。
わたしを助けてください。
ああ、なんてことだろう。
わたしは、わたしのためにおこなっていたのだ。
妄念に囚われ、いるかどうかもわからない神仏に縋った。
母が死に、父もまたやがて命を散らした。
ひとり残ってしまったことを、なつは信じようとせず、今まで通りに日々を振る舞い、生きてきたのだ。
歩みを止めてしまっては駄目だと思っていたけれど、もう気づいてしまった。
足を止めてしまった。
座りこんでしまって、もう動けない。
さわさわとした音が耳に届く。
ぼんやりと視線を巡らせると、社の向こうに彼岸花が揺れており、それはまるで手招きをしているようでもあった。
ああ、綺麗だ。
かつて、父に背負われて見た景色だ。
――きれいだねえ、おとうちゃん。
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