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幼馴染の中村太一の近くにいると、とにかく私の周囲は騒がしい。
本人が当たり前のように鏡でみている顔は思春期になるにつれ端正な顔立ちに成長していき、話せば和気あいあいと盛り上がる話術もあれば、何が起こるのか。
昨日まで楽しそうに話していた子が、廊下で太一を視界に捉えると視線を反らしてすれ違う現象を見る回数が増えたのは中学校にあがってからだった。
教室に戻ると虚ろな顔付きで沈む太一をみて私はすぐに例のを察した
「もしかして、告られたの?」
聞くと太一は静かに頷いた。
「はあ。もう橋田さんと漫画の話できないんだ」
嘆息し、机に突っ伏して悲しみに浸る幼馴染にできることといったら、何も言わずに肩を撫でて慰めるぐらい。
ある日ひょんな発言が、友達から飛び出した。
「ぜーーたい! 美奈のことが好きだよ」
「なにそれ? ありえない」
「だって考えてみたらそうじゃない?」
「考えたこともないから」
「太一君、いろんな子の告白をずっと断ってるじゃん! その理由はすばり! 好きな人がいる!」
「ないない」
「美奈は鈍感すぎるよ! この際言うけどね、太一君は美奈に告る勇気がないだけだよ。もし、告って振られたら、これまでの幼馴染の関係が壊れちゃうから、何もしないだけでしょ?」
「うーーん」
そう言われると、その可能性も無きにしもあらず。すぐに否定しない私をみた友達は何を勘繰ったのか。
「実は両思いだったりして」
ぽつりと放った言葉が、私の心奥深くまで落ちていき、じわりじわりと新たな感情を生み出しているとはまだこの時は意識できてなかった。
帰り道が同じだから、いつものように太一と並んで帰る道のり。変わりない当たり前の光景。
振ったのは彼なのに、まるで振られたかのような落ち込みように、明るい話で気分を変えるよりただ一緒に歩くだけで良かったのに、
「藍屋で、たこ焼き食べて行こうよ! 私の奢りでね」
帰り道の途中にある粉もん屋の名前を出して、左を歩く彼の背中を軽く叩いた。
「うん、そうだな。こういう時に美奈がいると心強いよ」
優しい太一の右手が伸びて、私の頭を軽く撫でた。
「ありがとう」
他の子には見せたこともない微笑みが、私だけに向けられている。
この瞬間、ずっと抑えていたものが一気に溢れでているのが分かった。
「どういたしまして」
私も微笑む。
きっと、お互い想うところは一緒だよね。
ただ、お互い勇気がないだけだよね。
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