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太一と同じ高校に進学した。
同じクラスにもなった。
そして、私達はまだ幼馴染の関係のままだった。
別の中学から合流した女子たちは、長身でイケメンの部類に入っている太一に興味津々で、何人かは頑張って話しかけていた。
彼も、異性を極力避けていた中学校時代とは様変わりして、普通に談笑を楽しんでいた。
きっとまた例のことが起こるのは必須だ。
その時に、彼の傷ついた心を癒せるのは、親友の早川瞬一と幼馴染の私だけ。
私はずっと待っているつもりでいる。
彼が誰にも言ったこともない言葉を、最初に貰える時を。
授業が終わるチャイムが鳴り、斜め後ろの席にいる太一に話しかけようと振り返ったら、何やら思いつめた表情でクラスを出て行った。
あんな顔初めてみたから、事情を聞くタイミングを逃してそのまま彼の背中を見送ることしか出来なかった。
本当は彼の隣の席が良かったのに、そこに座っているのは本当に地味な子がブックカバーをつけて読書をしていた。
休み時間が終わるチャイムが鳴る頃に、太一が帰ってきた。さっきの深刻そうな表情が嘘のように晴れ晴れしている。
理由を聞く前に、先生が教室に入ってきたのでまたまたタイミングを逃した。
背後から聞こえるゴタゴタ音の主は、慌てて教科書を出している地味な子だろう。
黒板に書かれた授業の内容をノートに書き写していたら、背中が指先でトントンと触られた。
振り返ると地味な子が床を指差して、
「消しゴム、落ちてます」
今にも消え入りそうな声で、床に落ちている消しゴムを教えてくれた。
拾うと私のものではなく、机に突っ伏している太一のものだった。
そのまま手を伸ばして、太一を起こした。
「太一、これあんたのでしょ?」
「ありがとう」
彼の表情は、先程の明るさを失い、力なく私から消しゴムを受け取った。
ひょっとしたら、体調が悪いのかな。
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