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友達だと認識していた子が突然に、
「好きです! 付き合ってください!」
と告げた時、俺は決まって絶句している。
その現場を偶然みていた早川瞬一いわく、数秒間驚いた顔をしていると。
「ありがとう。でもごめんね」
これを言うと、相手の女の子は頷いて納得してくれるみたいだが、次の日からは距離を思いっきり取られてほぼ他人みたいな関係に変化する。
そんなことが繰り返されるうちに、俺は思った。
恋愛ってめんどくさい。
女子と話さなければ何も起きない。
そうしていると唯一話せる異性は、幼馴染の本田美奈しかいなくなった。
すっかり硬化した俺の心が変化しだしたのは、高校に進学してからだった。
「太一くん、大人になろうよ」
クラス発表で、瞬一と離れ離れになると分かった時に親友が俺の肩に手を置いて穏やかな口調で言ってくれた。
それからは頑張って女子とは挨拶程度、同じクラスにいる美奈も混じれば雑談程度、男子含めて大人数なら談笑できるくらいまで、異性と関わるには大きな成長をしたと自負しているが、それでもやはり女子と二人っきりは避けているのは自覚していた。
そしてある日、先生が黒板に書いた言葉の解釈をつらつらと説明していた授業に、ついに集中力が切れた時、ふとなにげなく視線を左隣の席に向けた。
入学してから、ほとんどのクラスの女子とは挨拶程度以上の交流ができていたが。意外と隣の席の女子とはまだ会話すらしていなかったことに気づいた。
彼女は俺と違って、先生の授業を聞きながら、時折ノートに何かを書いていた。
真面目な子だな。
名前はーー町田灯里さんだったかな。
肩まである黒髪の前髪はおでこを覆い隠すぐらい伸びている。後ろの席で文字が見えにくいのか授業の時だけ黒縁の眼鏡をかけていることにも気づいた。
その横顔を暫く、寝た振りで机に突っ伏した隙間から眺めていた。
どんな声だろう。
もし笑ったら、どんな表情をみせるのだろう。
話してみたいな。
誰かを混じえて。
知りたい衝動に駆られるも、俺と彼女を繋ぐ共通の友達がいないことに気づくと、突然に彼女が遠い存在に思えてきた。
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