自称死神

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 ――とある広い部屋――  「いやあ、まさか花桜と澪の両方が生き残るとは思わなかったなあ」  一人の少年と思われる人物は玉座で一人の使いの者が金箔の塗られたティーカップに入れた紅茶を優雅に口に含む。カップから出る白い湯気は微かに甘い香りがしている。 「にしてもいいんですか?死神だなんて高貴な役職を名乗る輩を見逃しておいて。しかもあいつ、この前貴方が蘇生させた奴じゃないですか。」  不満気味の高い声が広い部屋に快く響き渡る。 「まあまあ、良いじゃないか。」 「良くないですー!しかも貴方が創った魔法を不完全な形で濫用して!なんですか、一人の境遇を二人で分け合うとか!世界の秩序が壊れますよ!」  のんびりと紅茶をあっという間に飲む姿に多少の苛立ちを覚えながらも少女と思われる高音の持ち主は、紅茶を飲み干した少年に新たな紅茶を追加する。少年は一言ありがとうと言っておいた後に朗らかな笑みを浮かべる。  「いや大丈夫。あの子は所詮世界の秩序に収まっているにすぎないよ。むしろ基本私情を挟んではいけない僕がどうこうできないような命の問題を、彼は不完全とはいえ良い方向へと導いていたからね。ありがたいよ。それに……」  少年はそこで赤みのかかった茶色い液体に視線を移す。そこには少年の幼顔が写っていた。その少年は、どこか切ない表情をしていた。  「僕は彼に魔法をかけたからね。境遇を入れ換える魔法を。彼の友人には死んでほしくなかったんだ。…まあそれは彼自身も望んだことだったけど…でもそれは一時的な感情だった。それを僕は利用したんだ。…だから今死神を名乗るくらい、許されるさ。…多分」 「まあ…そうですよね…」  それでも尚不満がありげな少女だったが、もうそれ以上なにも言わなかった。  少年は玉座から降り、階段を降り、その下に居る男に声をかける。  「それで、要求って、何?」 「ハッ、実は最近南部で新たな宗教が発足したようで、今はまだ人数も少ないようですが、どうやら現政府を打倒しようと企んでいるようで…」 「また?すぐに解体できそう?」 「現段階ならば余裕かと」 「わかった」  少年は短く返事すると、ため息をついた。  「あっちの世界もこっちの世界も本当、維持するのは大変だなぁ」  彼はこの世界での役職は王。  自称死神の世界から見れば、神である。「世界をより良くするために王になったのになぁ」  もう一度、王兼神はため息をつき、ポツリ嘆く。 「こんなんじゃあ何が正しいのか、わからなくなってしまうよ」  その声は、誰の耳にも入らず消えていった。
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