自称死神

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~自称死神~  俺は自称、死神だ。勿論職業も、死神。  死神は神の次に偉いとか、神のように信仰されたりもするんだ。けれどやはり、死神と言うと悪い印象を持たれやすい。  でも俺はそれでも自らを死神と呼ぶことを止めないし、役職も死神であることを辞めない。  では、何故俺がそんな意地を貼っているのか――  少しだけ、自分語りをさせて貰おう。  俺は生前、惨い殺され方をした。別に俺はそいつから恨みを買った覚えもないし、売った覚えもない。不運、不幸で片付けられた人生だった。二十五歳だった。  そーいや、死ぬ二日前、友達から「殺されるかも」って相談を受けてたんだった。結局あいつの前に俺が死んじまったな。  俺が最期に考えたのは、誰かへの感謝でも虚無感でも無く、そんな事だった。  けれど俺は気がつけば知らない所にいて、そこでは神を名乗る少年が俺にチャンスをくれた。少年が創った世界でこのまま人生をやり直せると。  つまりそれは異世界で第二の人生ってやつだ。魔力やらなんやらも使えるようになって、俺は順風満帆な人生を送れるようになった。  けれど俺は、友人を忘れられなかった。一年もたたずに俺はそんな楽しい生活を捨て、元々いた世界へ戻る方法を試した。異世界へはもう戻れないし、また霊へ戻ってしまうが、それでも俺は迷いなくその方法を試した。  何とか元の世界へと戻った俺は、辛うじて魔法が少し使えることに気がつく。  霊は…というか魔法を使用する時、霊感がある人以外誰にも見られないこと自体退屈で辛い事に気がついた俺は、気まぐれに『死神』をすることにした。友人も探しているのだが、なんだか見つけたら俺がおかしくなりそうで、見つけてはいけない気がして、結果中々見つけられていない。  …………え?死神って、何するのかって?気になるよな。  なら仕方がない、俺の一日を少し覗いてみれば良い――  ――って、何一人言言ってんだ俺。  俺は孤独から来た俺の心の病み具合を鼻で笑いながら今日も町を徘徊することにした。  世の中は、事故が減らない。それは空を飛び回って気が付いたことだった。  その問題をどう解決できるのか。俺は頭を悩ませた。  そして気が付く。もっとも不幸なのは、一方的な被害者のみ死ぬこと。そして根っからの善人が死ぬことだった。  だから俺は考えた。事故を俺には未然に防げない。ならせめて善人が死ぬ予定を悪人が死ぬ事に変える。そんな世界にはできないだろうか。いや、出来ない筈がない。だって俺は魔法が使えるのだから。これが俺の今の答えだ。  結果、俺が創り出したのは『精神への侵入魔法』。この魔法はざっくり説明すると、俺を強く求めれば、俺は俺を求めた奴の『境遇』を押し付けたいと願った奴に擦り付ける事が出来る魔法である。ただし、上手く相手を騙せればの話だが、それは案外簡単なので実質成功率百パーセントである。  その魔法で俺は色々な人の境遇を変えてきた。その内俺はネットでも騒がれるようになり、つまりはオカルト好きの話題として大人気となった。  そんなある日だった。  事故を見た。  白い車が信号無視で女子大生二人へ突進、咄嗟に一人が自らを犠牲にもう一人を押し退け、見ていられないような傷を負っていた。  ――次の日、犠牲となった女性は手術をしたものの、命は風前の灯だった。  そしてもう一人の茶髪の女の子は俺について書かれた書き込みを見つけ、強く俺を願うようになった。  ――正直、異常だった。  茶髪の子の命は、もう一人の女の子のお陰で助かった。  「そりゃ、辛いだろうけどさ」  だからといって、それほどまでにあの事故の運命を変えたいと願うだろうか?  だって、自分は生きているんだ。  俺は首をかしげながらその女の子に会いに行った。  「君が俺を呼んだんだよね?」 「!?だ、誰!?…ですか?」 「俺は死神だよ。君があまりにも俺に来てほしいって頼むからねえ。それほど願うのなら、チャンスをやろう、とね。」 「チャンス……」  目の前の女の子は目を見開き、口をパクパク動かせた。しかし、声は出ていない。代わりに、両目からは大粒の涙が溢れだした。今度は俺が驚いた。 「ど、どうしたんだい!?」 「ご、ごめんなさっ……嬉し、過ぎて……」 「それは歓喜の涙と受け取ってもいいかい?」  何度も頷く。何度も喜ばれたけど、泣かれたのは初めてだ。  女の子を泣かせてしまってなんだか申し訳なくなり、俺はその女の子の名前を聞く。 「君の名前は?」 「私は『花桜』です。」 「花桜ね。花桜、じゃあ今から俺は君を助けた子の魂を来るまで轢いた人のある心の中に一時的に移すよ。心の中って種類があってね……って、ここは省かせて貰うね。ああ、勿論助けた子にはこの状況を説明して、うまく致命傷を押し付けられるようにコツを…」 「え?」  花桜は大粒の涙を量産するのをやめて、こちらをキョトンと見つめてきた。 「ああごめん、心の中の種類の説明ってややこしいから省かせて」 「じゃなくて……お願いします。私を『澪』ちゃんの心の中へ連れていってください。ネットで見ました。心の中へ入られた者を心の中に入った者が上手く騙せば、私の境遇の一部と澪ちゃんの境遇の一部を入れ換えられるって……それって、私の掠り傷と澪ちゃんの致命傷を入れ換えられるはずだから……」  おどおどしながらもハッキリと言った花桜に俺は目を見開いた。 「え!?何でだい、澪を轢いた奴との境遇を入れ換える方がよくないか?人を騙すのは難しい。でも俺が案内する心の中は数日間の記憶が曖昧なんだ。だから澪も簡単に人を騙せる、上手く行く」 「違うんです」 「何が?」 「私、事故した人に致命傷を負わせたくないんです」 「はあ?」  思わず顔を歪める。何言ってんだ?  「お前、馬鹿なのか?何故加害者をかばう必要がある。」 「馬鹿じゃないです。……事故は駄目ですし、許されないってわかってます。でも…」  そこで一瞬花桜はいいよどみ、しかしまたハッキリと言い放った。 「でも、だからその人を犠牲にするとかは、私には出来ないです」 「は?……いやでもそれを言うなら、君が代わりに犠牲になるじゃないか」 「元通りになるだけです」 「元通りに、か。理解に苦しむな。澪が命を賭してまで守りたかったものを、自分で壊しにいくなんてな」  俺が鼻を鳴らしながら歪んだ笑みを見せると、花桜は自嘲ぎみに笑い、俺は面食らう。 「事故を起こした人、親が危篤だったらしいんです。あの事故がなければ、親の死に目にも会えた。つまりは、それほどまでに緊迫していた。――人ってそういうとき、冷静にいられると思いますか」 「それは……俺も……」  頭が何故かズキリとした。  俺は霊になって尚感じたその痛みを振り切るべく、咄嗟にこう答えてしまった。 「わかった。君が意見を曲げる気がないならそれでいいさ。いいよ、受け入れよう。」 「!ありがとうございます!」  ――まあどうせいずれこうなったさ。俺が折れざるをえなくなる。  俺は肯定しても良かったと結論付けると、俺が開発した魔法を使うことにした。  魔法を使って最低限の事を教えれば、もう俺はそこから去る。だから翌日のニュースでやっと花桜と澪が双方事故に遭い、どちらも命に別状はないものの重症と知った。花桜の傷は増え、澪の命は救われた。きっとこれはこれまでで『一番のハッピーエンド』だろうな。  花桜の優しさは、誰もが喜ぶ幸せを迎えたのだ。俺が選択しようとした道だと、誰かが犠牲になっていた。こんな選択肢もあるのだと、俺は思い知らされた。もしかしたらこの選択こそが、俺がずっとこの死神をして来た答えなのかもしれない。  ああ俺も、そんな選択ができれば良かった。  俺はそんなよくわからない後悔と共に両目から一滴の涙が流れたことに気が付く。  俺は首をかしげながらそれを拭き取る。しかし今の俺は霊体なので、今の動作は不必要かもしれない。だって今の俺は誰にも見られないのだから。
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