忘れたイヤリング

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「ねえ、珍しいわね。」 マリコが、はしゃいだような声を出して、振り返えってタクミに言った。 「そうだね。昔は、デパートで、毎年やってたんだけどね。」 2人は、百貨店のJRの落とし物市のイベントに、偶然に出会わしたのだ。 「ねえ、これなんか、新品よ。」 そう言って、マリコは、ブランド物のセーターを身体に当ててみた。 「だめだよ。そんな誰が来たかも分かんないセーター。気持ち悪いでしょ。それだって、若い女性が着ていたものとは限らないんだよ。変態趣味のオッサンが素肌に着てたかもだよ。」 「いやだあ。もう、タクミは、潔癖症過ぎるんだよ。このブランドは、若い女の子しか買わないよ。でも、どうして、こんなの電車の中に置き忘れたんだろう。帰りは、裸で帰ったのかな。」 そう言うと、ひとりおかしそうに笑った。 「ねえねえ、帰りは、こうやって、胸を両手で押さえて帰ったとか。おろおろーってね。」 マリコは、そう言いながら、両手を乳房に当てて、昔のテレビドラマに出てきそうな泥棒の挙動不審な歩き方をマネして、エクボを思いっきりへこませて、タクミを見た。 マリコとタクミは、まだ付き合って3ヶ月ほどだ。 いや、正確なことを言うと、付き合っているのだろうかとタクミは思っている。 お互いに、会って楽しいし、好きだという気持ちは、間違いなくある。 でも、それをお互いに確認し合ったことがなかった。 今だって、タクミは、マリコのお道化たはしゃぎっぷりをみると、抱きしめたいという衝動に襲われたのである。 激しい恋愛の感情なんて、それを望んでいる訳じゃない。 いや、望んでいるのかもしれないが、今の僕には無理だと、タクミは感じていた。 それよりも、そばに居て楽しいという感覚を大切にしたかった。 何よりも、今の関係を無くすのが怖かった。 「ねえねえ、スゴイよ。あっちにスカートあるじゃない。ひょっとしたら、同じ人が忘れたりしたりして。ほら、こうやって、帰る時はさ、こうやって、、、、。」 といいながら、右手で胸を、左手で股のところに手をやって、滑稽な歩き方で、今にもマリコ自身が噴き出しそうな顔をして、タクミを覗き込んだ。 「まだ、その話を膨らませるんだ。」 マリコの吹き出しそうな顔を見て、タクミの方が先に吹きだした。 「あははは。マリコは、可愛いな。」 それは、真実の気持ちだった。 「それにしても、落とし物って、面白いね。そういえばさ、骨壺なんてのも、忘れるんだってさ。」 「へえ、それじゃ、忘れた人どうしたのかな。」 マリコは、そう言って、首を傾げた。 そんな時だ、入口に50過ぎの、見るからにお坊さんだと解る男性が入ってきた。 後ろに、若い女性を2人従えている。 尼さんだろうか。 お坊さんは、係りの人に、軽く会釈をして入口付近で立ち止まった。 そして、遠くを見るような、それでいて、忘れ物を凝視しているようでもある、不思議な視線で、会場を見渡していた。 そして、後ろにいた女性に、「あの傘に、あのセーターだ。」と言った。 それを聞いた女性は、すぐにそれを取りに行って、買い物かごに入れた。 すると、坊さんは、「うむ。」と、何やら意味ありげに頷く。 そして、ゆっくりと、陳列台の忘れ物を見ながら、歩き出した。 そして、タクミとマリコの傍に来た時に、マリコの目の前のネックレスを取り上げて、「これは、かなり強烈だな。」と言って、目をつぶったかと思うと、ぼそぼそと呪文のようなものを唱えて、そして後ろの女性の買い物かごに入れた。 それを見た、マリコは、お坊さんに話しかけた。 「お坊さんなのに、ネックレスですか。あ、奥さんのプレゼントだ。でも、忘れ物じゃ、可哀想よ。」 マリコは、こういうところがある。 誰にでも、相手の事を考えずに話しかけてしまうのだ。 「おいおい。マリコ。急に話しかけたら、失礼だよ。」 タクミが、止めたが、もう遅い。 「はは。お嬢さん、マリコさんと言ったかな、君は、これが落とし物だと思うのかね。」 「だって、落とし物市じゃない。JRで誰かが忘れていったんでしょ。」 「うむ。そう思うのも当然かもしれないな。でも、これは落とし物じゃない。」 「だったら、何なんですか。」 「捨てた物じゃ。」 「捨てた物。」マリコにつられて、タクミも同時に返事をしてしまった。 タクミは、その言葉が気になって、お坊さんに聞いた。 「落とし物と、捨てた物は、同じじゃないんですか。それに、どうして、捨てた物を買っているんですか。」 「うむ。落し物は、まあいい。でも、捨てた物には、まだ、それを持っていた人の念が残っているのだ。その念の中には、恨みや憎しみと言った邪悪な念もある。それを買ってしまったら、新たな所有者は、エライコトになるんじゃ。」 「エライコトって?」 マリコが、目を輝かせる。 ちょっと、お坊さんは、そこに引っかかるか、というような表情になったが、答えた。 「エライコトっていうのは、エライコトなんじゃ。まあ、簡単に言うと、前の所有者の念を持ってしまうことになるんやな。だから、前の所有者が、男に振られて別れたんだったら、新しい所有者にその念が移るんだよ。だから、今まで幸せに付き合ってたのに、急に別れてしまったりな。とりあえす、そんなエライコトなんだよ。」 「ふーん。それは、エライコトですね。」 おいおい、それで納得したのかい。 「でも、あたしなんか見ても、全然、分らないよ。落し物と捨てた物。」 「そらそうじゃろ。このわしだって、始めは分からなかった。でも、神道の修行に10年、キリスト教の修行に10年、それで、仏教の修行で10年やって、それでやっと手に入れた能力だからな。」 お坊さんは、どうだという顔でマリコに言った。 「ふーん。それで、お坊さん何歳なの。」 マリコは、ツッコミを入れたが、それは、タクミも同感だった。 でも、タクミは、そんなに反射的には、ツッコメナイのである。 「あれ、ちょっと計算あわないか。まあ、そんな修行をしたって言う訳だ。それでだな、そんな前の所有者の念の残った捨てた物をだ、わしがこうやって、買い集めて、そしてお寺でお焚き揚げをして供養するっちゅうわけや。どうや。なあ、どうや。」 「いや、どうやって言われても、、、、。まあ、スゴイですねと言うことなんですよね。」 マリコが、困っているのを見るのは初めてだ。 「そうだ。君も捨てたいものがあったら、お寺に持って来なさい。わしが、一緒に供養してあげるよ。こんどの日曜日にお焚き上げするからね。」 「そうだ。そういえば、家に子供のころの縫いぐるみがあったのよ。それ、どうしても捨てられなくて、だって、可哀想でしょ。」 「おお、そういうのも持ってきなさい。捨てる物は、何も恨みとか、そういうネガティブなものばかりじゃない。時には、愛の念のこもった物もあるんじゃ。しかしな。愛という感情は、時には、その裏返しになる瞬間がある。愛は、執着と犠牲の元となる。きっと、その縫いぐるみを供養したら、執着と犠牲から離れて、新たな愛を得ることができるかもしれんぞ。」 「新たな愛。」 そうつぶやいて、嬉しそうにタクミを見た。 その場は、そこでお坊さんと別れたが、どうにも怪しい男である。 第一、話も胡散臭いが、醸し出される雰囲気が、変だ。 まあ、近づかない方が賢明だろう。 そう思っていたが、マリコは、至って真剣だ。 あの「新たな愛」という言葉にやられたようである。 そして、結局は、マリコに付き合って、1つ隣の駅にあるお寺に行くことになったのだ。 「おお、来たんだね。」お坊さんが、タクミとマリコを見つけて声を掛けた。 「はい。おじゃまします。それで、この前言ってた縫いぐるみが、これなんです。」 「うん、可愛い縫いぐるみだね。愛着が感じられるよ。そしたら、この石油缶に入れて。」 見ると、石油缶の蓋のところをくり抜いて、そこに木材やら、そんなものを投げ入れて、燃やしている。 工事現場で見るようなやつだ。 「えっ、供養って、何かお寺の本堂で、こうお経とか唱えて、何か、パッ、パッと、こんなことやってするんじゃないんですか。これ、普通の石油缶じゃない。これ、たき火と違うの?」 マリコは、九字を着るような、忍者のようなジェスチャーをして、お坊さんを見た。 「いや、たき火に見えるけど、これで供養するんじゃ。お焚き上げって言っただろう。」 「はあ。まあ、それで供養になるんだったら、そうしますけど。」 「そうだ、それが良い。こういうのは、専門家に任せるのが1番じゃ。」 そう言われて、マリコは、火が勢いよく燃えている石油缶に、縫いぐるみを投げ入れた。 「よし、これで縫いぐるみの愛着と同時に、あなたの過去が綺麗に成仏したぞ。これからは、新しい人生が待っているんだ。良かったな。」 「はい。それなら、良かったです。」 マリコが、そんな説明で納得したのにタクミはビックリしたが、まあ、これで気が済んだのなら、まあ、結果的に良かったと言えるのかもしれない。 「でも、温かいね。そうだ、この火で焼き芋とかできないのかなあ。ねえ。」 マリコは、冗談のようなことを、お坊さんに嬉しそうに聞いた。 その言葉に、タクミは、すぐに反応した。 「それは、ダメだろう。だって、ここで燃やしてるのは、恨みとか、怒りとか、そんな念のこもった、ほら、捨てた物なんだろう。気持ち悪いじゃない。そんなの。恨みの炎で焼いた焼き芋なんて、食べる気がしないよ。」 「ふーん。タクミさんは、そういうの気にするんだ。」 と、詰まらなさそうに言った。 「そりゃそうだろう。」と言いかけたら、お坊さんが、ニヤリと笑って、「ほお。面白いアイデアじゃないか。今度は、それでやってみるか。恨みのこもったものを焼いて、その炎でさらに焼き芋。それは、グッドアイデアだな。そうだ、名前付けなきゃだな。『恨み芋』ってのは、どうだ。」 「ナーイス。」 マリコとお坊さんが、笑った。 いやに楽しそうだな。 その笑っている時に、若い女性がやってきて、お坊さんに頭を下げた。 「このネックレスを供養したいんですけれど、、、、。」 「おお、そうか。何かツライ事でもあったのかな。まあ、ネックレスは燃えないけれど、この炎の中に入れると、きっと悪い念は消えてしまうはずだ。それにしても、どうしたのかな。」 「ええ、実は、このネックッレスをくれた人と付き合ってたんです。でも、わたしと別れて、仕事に集中したいって、、、あたし、捨てられたんです。」 そう言った目には、薄っすらと涙が浮かんでいる。 「そうか、仕事にねえ。」 「ええ、新しいい事業を立ち上げたいって言ってました。でも、きっと、女だと思うんです。あたし、捨てられたんです。」 「捨てられたねえ。」 「だから、こんなネックレスなんて、もう要らないんです。」 「そうだ、ちょっと見せてみなさい。」 そう言って、お坊さんは、そのネックレスを手に持って、目をつぶった。 ややあって、お坊さんは、その女性に言った。 「あなたは、捨てられたんじゃない。うん、捨てられたんじゃない。忘れられたんだ。」 「忘れられた?」 「ああ、仕事に夢中になるあまり、あなたのことを一時的に忘れた。ただ、それだけだ。あなたを嫌いになった訳じゃないし、女でもない。」 おお、お坊さん、断言したよと、タクミはビックリして、お坊さんをまじまじと見た。 「本当ですか。ホントに、本当?じゃ、あたしたち、これからどうなるの?」 「戻ってくる。彼は、あなたに戻ってくる。ただ、忘れただけだからね。そのうちに、あなたが大切だって事、思いだすよ。」 女性は、急に表情が明るくなって、また涙ぐんだ。 今度の涙は、喜びで光っているように見えた。 「でも、そんなに大切なんだったら、忘れないんじゃないのかなあ。」 マリコが小さな声で呟いた。 「そんなこと言っちゃダメだろう。」 とタクミは、女性に気を遣ってマリコを止めた。 すると、お坊さんは、「うむ。」と頷いて、「人間はね、大切なものほど、忘れてしまうものなのだよ。何故かは、分らないが、そういうものだ。」と、自分自身の言葉に酔っているような恍惚の表情を見せて、マリコに説明をした。 「そうかもしれない。あたし、子どものころ、チロルチョコレートと不二家のペコちゃんのチョコレート持ってて、ペコちゃんのチョコだけ、どこかに落としちゃったことあるよ。やっぱり、大切なものほど、忘れるんだよね。」 マリコは、そう自慢げに言ったが、あまりの程度の低さに、ため息のような笑いがこみあげて来た。 「そうですね。わたしも、本当に、あたしの事を、大切にしてくれてたおばあちゃんの事、普段、忘れてるもん。おばあちゃんの愛、忘れてた。」と、女性が続けた。 そういうことなんだよと、タクミは、心の中で思った。 マリコと大きな違いだ。 「そう言う事です。その彼氏も、きっと、あなたの愛に気が付いて、また戻ってきますよ。」と、お坊さんが説明をした。 捨てたんじゃなくて、忘れたのか、、、。 タクミには、その言葉が引っかかった。 タクミには、一昨年まで付き合っていたリカという女性がいた。 でも、そのリカを、これから一生幸せにしていかなければいけないという重圧のようなものを感じて、ある時、タクミは、リカの前から、姿を消したのだ。 漠然とした不安と恐怖に、タクミは耐えられなかったんだ。 普通じゃなかった。 そして、理由も言わずに、リカと別れた。 友達に聞いたら、その後のリカは、そうとう荒れていたそうだ。 ショックで食事もとれない状態だったと聞いた。 「あたし、捨てられたんだ。」って、その友達に泣いて話したらしい。 それを聞いて、タクミも、リカを捨てたと、心の中に思っていて、それがずっと、引っかかっていたんだ。 だから、マリコとも燃えるような恋に発展しなかったのかもしれない。 その時、自分は、リカを捨てたんじゃない。忘れたんだと、タクミは気が付いた。 いや、気が付いたというより、そう思いこもうとした。 「そうだ。僕は、リカを捨てたんじゃない。ただ、忘れただけだ。だから、思いだせばいいんだ。そうだ。僕は、本当はリカを愛している。」 タクミは、頭の中で、そんな都合の良いことを考え出した。 ああ、リカに会いたい。 そして、ただ、忘れていただけだと言おう。 捨てたんじゃないと説明しなきゃいけない。 忘れるなんてことは、よくあることだ。 リカを忘れたってことは、リカが大切な人だったということの証じゃないか。 だって、お坊さんの言うように、大切なものほど忘れるのが人間なんだ。 きっと、そう説明すればリカも解ってくれる。 そうだ、リカを思い出そう。 早く、会いたい。 そう思うと、タクミは、居ても立ってもいられなくなってきた。 「ねえ、マリコ。僕、前にリカと付き合ってたこと知ってるでしょ。でも、別れたのは、捨てたんじゃなかったんだ。忘れただけなんだ。それを言いに行かなくちゃいけないんだよ。リカに会いに行ってくるよ。」 そう満面の笑みでマリコに言った。 マリコは、頭が真っ白になって、「あたしは、どうなるの?」と、か弱い声で聞いた。 「どうなるのって、、、どういうこと。だって、マリコは、マリコでしょ。僕は僕なんだからさ。」 それを聞いて、マリコは、頭から血の気が引いていくのを覚えた。 「わたしたち、付き合ってないの?」 聞こえるか聞こえないかの声を出すのが精いっぱいだった。 「えっ?だって、僕たちは、付き合ってないでしょ。そんな付き合うって話もしたことないもんね。そうだよね。」 タクミは、戸惑ったような表情でマリコに言った。 「、、、、あたしたち、付き合ってない。」 それしか、マリコは言う事が出来なかった。 お坊さんも、女性も、心配そうな顔をして黙っている。 「だよね。じゃ、今から、行っていいよね。悪いけど、ひとりで帰ってね。」 「、、、、。」 マリコは、もう何も声に出すことができずに、ただ頷いた。 顔も上げることが出来ずに、タクミが去っていく足音を聞いていた。 情けなくて、「あははは。」なんてカラ元気を出して笑おうとしても、口がへの字になって、開かない。 硬く硬く、唇がへの字に曲がっている。 無理に口角を上げようとしても、唇が、ブルブルと震えて、余計に曲がってしまう。 ああ、こんな変な顔、誰にも見られたくない。 そう思うと顔を上げることが出来ないでいた。 涙と、鼻水が、ポタリポタリと、今日おろしたばかりのお気に入りの靴に落ち続ける。 「付き合ってなかったんだ、、、。」 震える声で呟いた。 タクミの事、好きだった。 いつも幸せな時間を共有していると思ってた。 笑いながら話して、笑いながら食事して、そう、いつも笑ってたよね。 それは、タクミもあたしを好きだと思ってくれているからだと思っていた。 違ったんだね。 あたしのこと、好きじゃなかったんだ。 ううん、嫌いじゃなかったのかもしれないど、彼女でもなかったんだね。 勘ちがいしてたの、あたしだけ。 「付き合ってなかった、、、。」 ってことは、あたし捨てられたのかな。 忘れたんじゃないよね。 忘れてたのは、リカの事なんだもの。 もう、あたし、どんな風に思われても良い。 でも、誰かに確かめたい。 あたし捨てられたのかって事。 思い切って、顔を上げて、お坊さんに聞いた。 「あたし、捨てられたんですか?」 もう、顔中、得体のしれない液体で、グショグショだ。 その哀れな姿を見て、お坊さんは、腰が引けたようになって、おどおどと言った。 「あ、いや。なに。実のところ、わしは、若い時から修行をしててな、女性と付き合う機会もなかったんじゃ。だから、わしは、今まで、女性と付き合ったことがないんじゃ。だから、悪いけど、男女の色恋については、わしゃ、わしゃ、よう分からんのじゃ。悪く思わんでくれよ。」 そう言って、そそくさと本堂の方に逃げていった。 残されて女性は、お坊さんが逃げる姿を見て、慌てて、「あ、あたし、捨てられたんじゃないと思います。きっと、忘れたんです。」 びっくりするような大きな声で、しかも棒読みのような言い方で、言ったかと思うと、小走りに去っていった。 顔中、涙と鼻水で、グショグショのマリコは、ひとり、たき火の前に残された。 「みんな、あたしを捨てて行っちゃった。あはははは。」 何故か、自然に笑うことが出来た。 ここまで、散々な目に遭うと、もう笑うしかない。 少し元気のようなものが出てきて、マリコは、駅まで、歩いて行った。 ホームに立った時に、そういえば、このイヤリング。 タクミがくれたんだと思いだした。 「ええい。こんなもの捨ててやろう。今度は、あたしが捨てる番だぞー。」 そう言って、イヤリングを外して、握り締めた手を、野球選手の様に大きく振りかぶって、線路に投げるふりをした。 でも、投げられない。 「タクミ、あたし好きだったんだよ。あなたが、あたしを見る目は、なんか、優しかったよ。だから、あなたも、あたしの事好きだと勘違いしちゃった。あたしって、バカだね。」 また、ひとつ、ため息をついた。 ホームのスピーカーから聞こえる列車案内の言葉が、外国語のようで、聞きとることが出来ない。 どうしちゃったんだろう、あたし。 今頃、タクミは、リカに会えたんだろうか。 あはは、そんなこと、もう関係ないんだよね。 「でも、あたし、、、タクミの事、好きだったんだよ。ホントに。」 そう呟いて、ホームのベンチにイヤリングを、そっと忘れた。
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