13年前。居籠の夜。

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 トントン    戸口のそばにいた少年は、確かに叩く音を聞いた。 「……お母、戸を叩く音がしてんで」 「風の音やろう。誰も外には出てへんはずや」  トントン 「風ちゃうで。……誰か叩いてる」 「そんな訳無いやろ。今夜は居籠(いごもり)やで。誰も外に出たらあかん夜や」 「でも絶対に誰かいるて」  少年は戸口に近寄り、手を当てた。  カタカタとわずかに感じる振動は風のものだろう。 97de0155-401c-4793-a3c2-27eeff9c755d 「絶対に開けたらあかんで!」 「開けへんけど……」  そう言いながらも、少年は耳を澄ませた。  トントン  絶対に誰かが叩いている。  そう思った少年は、小さくトントンと叩き返した。 「……誰かいるん……?」  戸口に耳を付けると、静かに穏やかに、言葉が返された。 「この子も、仕舞(しま)おか」  このこ? しまおか……? 「え? "このこ" って……」  そう少年が問うと同時に、赤子の泣き声が聞こえた。  えーん えーん…… 「お母! 外で赤子が泣いてる! もう開けるで!」  真冬の夜に響く赤子の泣き声に、少年はガタガタと戸を開けた。 「条介(じょうすけ)! 開けたらあかん!」  母親の声が聞こえたが、開けた戸口から冷たい風がびゅうと少年の頬に当たった。  そしてそこに、籠に入って泣いている赤子を見た。 「赤子が……っ!」  そう言って顔を上げた少年は、吐く息の白さの遠く向こうに、白い装束の後ろ姿を見た。  美しい真っ白な装束に身を包んだ貴人。  その左腕の袖は無かった。 「条介!」  母親も戸口に駆けつけた。  そしてそこに置かれた赤子を籠ごと中に入れると、すぐに戸口を閉めた。    
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