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「おい、落ち着けって、タケシ。」
俺は後ずさりながら徐々に立ち上がった。
タケシも俺を見て徐々に立ち上がった。
その右手には絵馬が握られている。
なんてことない絵馬だが、俺にはまるでタケシがナイフを手にしているように見えた。
「さあ、どうするのか、教えろよ。このバチ当たりな絵馬によ。」
賽銭泥棒を指摘するやつをバチ当たり呼ばわり。
ああ、もう、タケシは自分を神だと錯覚してでもこの罪から逃れる気だ。
「え~と、その、そ、そいつが本物の神様だと、す、するなら、」
タケシがドンと一歩、もう遠慮することないと大きな足音を立てて近づいてきた。
「い、今のタケシと俺の状況を見ていて、み、見ていると思うから、」
ドンッ!タケシがまた一歩近づいてきた。
ニタニタと笑いながらこっちを見ている。
いつかの映画で観た殺人鬼のようだ。
人間、本当に怖いときは声が出ないってのは本当だな。
首の内側がギュッと締まってやがる。
それでも、俺は声を絞り出した。
「だから、どうするか、を、お、追い詰められてるやつが、な、なんて言うかで決めようと思っていると、お、思うから、」
ダッ!とタケシが俺に飛び掛かってきた。
不意をつかれた俺はうまく逃げられず後ろに倒れこんだ。
あっという間にタケシにマウントを取られ、両手を押さえられてしまった。
「本物の神様が、福田がなんて言うかでどうするか決めるだって?」
俺は必死に抵抗し、何とかタケシの手をを振りほどこうとするができなかった。すごい力だ。
「なんて言うんだよ。福田は、今、なんて言うんだよ!」
俺は天に届けと力の限り叫んだ。
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