38.眞比呂

1/1
前へ
/38ページ
次へ

38.眞比呂

こいつすげぇ。 正装して薔薇の花束抱えてやって来て、まだキス止まりの恋人に向かってプロポーズ。 そして指輪のサイズが合わなくて嵌まらないというオチ(笑)。 笑いの神に守られしノンケよ。 「伊吹(いぶき)」 「……すみましぇん…」 「気持ちはわかったよ。だから、こうしようか」 「え?」 俺は薬指の第一関節でギチギチになっていた指輪を抜き、隣の小指に移動させた。 あらぴったり🖤 「ほら、こっちなら大丈夫」 「眞比呂さん…」 「薬指にしてると学校でもいろいろ詮索されるし、ちょうどいいよ」 「あ……ありがとうございますぅ……」 この抜け加減が最高なんだよなぁ。サイズばっちりの指輪持ってこられるより、クるかも。 どんな顔してこれを選んだのか、想像するだけで……… ん? 「もしかして、これもお姉さんと選んだとか」 「違いますっ!これは俺が一人で…」 「それなら良かった……っぅわっ!」 いきなり押し倒された。ぎりぎりカーペットの上だったので頭を打ち付けなくて済んだ。 が、どうした? 発情期? 「眞比呂さん……っ、俺、今日は…あなたを…」 あらら、急に来ましたね。覚悟してきてくれたのかな? 「俺を?」 「だ…だ…だっ…だいっ……」 「……抱いてくれるの?」 「は……はいっ!だ、抱かせていただきたいと…お、お、思って、おりますっ」 クッソ可愛い。 緊張しすぎて汗だく。…あ、垂れてきた。 じゃあ、少し助け舟を出そうか。 「伊吹…」 そっと里村、いや伊吹の顔を撫でてあげると、急に目の色が変わった。 勢いよく唇を奪われた。今までのおそるおそるだったキスとは比べ物にならない。舌が割り込んできて、エロい音がする。 シャツの上に重ねたセーターは手際良く脱がされた。手間取りながらもボタンを開けて、鎖骨のあたりにキスをされる。 ………もしもーし、急に手慣れてない? ちょっと考えたけれど、伊吹の手がデニムのウエストあたりを弄り始めて、どうでも良くなった。ごそごそとファスナーを降ろされ、さすがにドキドキする。 「……あっ!」 両脚の間で伊吹が叫んだ。 そんなとこで叫ばれると、なにやら恥ずかしいんですが。驚いた顔で伊吹は起き上がり言った。 「眞比呂さん、これ……」 さて、サプライズの威力はいかに? 「ふふ……似合う?」 「こ、これ、芳崎(よしざき)の…」 「違うから!あれは赤!」 そういえばまだ返してない。俺の家に、レースのパンツが2枚。それも赤と黒(笑)。ほんとシュール。 「え、じゃあ、あの……」 「これは、」 伊吹の顔を引き寄せ、俺は耳元で囁いた。 「クリスマスプレゼント🖤」 まさかの、数学の田中先生が言った、「プレゼントは私❤️」を自ら実践することになるとは…… 人生ってわからないものですね。 「眞比呂さんっ」 伊吹は、急に大きな声で名前を呼ぶと、柔道経験者の野太い腕で俺を抱き上げた。 「えっ…ちょっと、おいっ」 「…ベッドはどこですか」 急にオスの顔。いつのまにかネクタイの結び目が緩んでいて、その具合がまた色っぽい。 俺はその結び目に指を入れて、しゅるりと解いた。 そして、寝室のドアを指差して、再び耳元で囁いた。あえての、ハスキーボイスでね(笑)。 「………あっち🖤」 伊吹は赤い顔でうなづいて、まるで戦いに行くかのようなワイルドさでずんずん歩き、俺を抱っこしたまま寝室のドアを器用に開けた。 ベッドに降ろされ、伊吹を見上げると、それはそれは男らしく、ジレもワイシャツも豪快に脱ぎ捨てる。上半身が裸になったところで、覆い被さられ、再びキス。 しながらもデニムを降ろされ、伊吹の手が腹のあたりからゆるゆると降りてきた。 俺は、柄にもないことを言いたくなった。 「伊吹…」 「……はい」 「さっきの、本気?」 「…結婚のことですか」 「うん」 「本気です。……返事は、OKですか」 「……そうだね」 「眞比呂さん」 「うん?」 「好きです……ずっと、一緒にいてください」 「2回目だよ?」 「大事なことなので2回言いました」 2回告白されて、2回プロポーズされるって、俺はものすごく幸せ者なのではなかろうか。 見上げると、安心した様子で微笑む伊吹がいる。   こんな恋愛も、悪くない。 「伊吹」 「はい」 「…愛してるよ」 クリスマスイヴの夜、長らくキス止まりだった俺たちは、やっと初めの一歩を踏み出した。           完
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

230人が本棚に入れています
本棚に追加