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38.眞比呂
こいつすげぇ。
正装して薔薇の花束抱えてやって来て、まだキス止まりの恋人に向かってプロポーズ。
そして指輪のサイズが合わなくて嵌まらないというオチ(笑)。
笑いの神に守られしノンケよ。
「伊吹」
「……すみましぇん…」
「気持ちはわかったよ。だから、こうしようか」
「え?」
俺は薬指の第一関節でギチギチになっていた指輪を抜き、隣の小指に移動させた。
あらぴったり🖤
「ほら、こっちなら大丈夫」
「眞比呂さん…」
「薬指にしてると学校でもいろいろ詮索されるし、ちょうどいいよ」
「あ……ありがとうございますぅ……」
この抜け加減が最高なんだよなぁ。サイズばっちりの指輪持ってこられるより、クるかも。
どんな顔してこれを選んだのか、想像するだけで………
ん?
「もしかして、これもお姉さんと選んだとか」
「違いますっ!これは俺が一人で…」
「それなら良かった……っぅわっ!」
いきなり押し倒された。ぎりぎりカーペットの上だったので頭を打ち付けなくて済んだ。
が、どうした?
発情期?
「眞比呂さん……っ、俺、今日は…あなたを…」
あらら、急に来ましたね。覚悟してきてくれたのかな?
「俺を?」
「だ…だ…だっ…だいっ……」
「……抱いてくれるの?」
「は……はいっ!だ、抱かせていただきたいと…お、お、思って、おりますっ」
クッソ可愛い。
緊張しすぎて汗だく。…あ、垂れてきた。
じゃあ、少し助け舟を出そうか。
「伊吹…」
そっと里村、いや伊吹の顔を撫でてあげると、急に目の色が変わった。
勢いよく唇を奪われた。今までのおそるおそるだったキスとは比べ物にならない。舌が割り込んできて、エロい音がする。
シャツの上に重ねたセーターは手際良く脱がされた。手間取りながらもボタンを開けて、鎖骨のあたりにキスをされる。
………もしもーし、急に手慣れてない?
ちょっと考えたけれど、伊吹の手がデニムのウエストあたりを弄り始めて、どうでも良くなった。ごそごそとファスナーを降ろされ、さすがにドキドキする。
「……あっ!」
両脚の間で伊吹が叫んだ。
そんなとこで叫ばれると、なにやら恥ずかしいんですが。驚いた顔で伊吹は起き上がり言った。
「眞比呂さん、これ……」
さて、サプライズの威力はいかに?
「ふふ……似合う?」
「こ、これ、芳崎の…」
「違うから!あれは赤!」
そういえばまだ返してない。俺の家に、レースのパンツが2枚。それも赤と黒(笑)。ほんとシュール。
「え、じゃあ、あの……」
「これは、」
伊吹の顔を引き寄せ、俺は耳元で囁いた。
「クリスマスプレゼント🖤」
まさかの、数学の田中先生が言った、「プレゼントは私❤️」を自ら実践することになるとは……
人生ってわからないものですね。
「眞比呂さんっ」
伊吹は、急に大きな声で名前を呼ぶと、柔道経験者の野太い腕で俺を抱き上げた。
「えっ…ちょっと、おいっ」
「…ベッドはどこですか」
急にオスの顔。いつのまにかネクタイの結び目が緩んでいて、その具合がまた色っぽい。
俺はその結び目に指を入れて、しゅるりと解いた。
そして、寝室のドアを指差して、再び耳元で囁いた。あえての、ハスキーボイスでね(笑)。
「………あっち🖤」
伊吹は赤い顔でうなづいて、まるで戦いに行くかのようなワイルドさでずんずん歩き、俺を抱っこしたまま寝室のドアを器用に開けた。
ベッドに降ろされ、伊吹を見上げると、それはそれは男らしく、ジレもワイシャツも豪快に脱ぎ捨てる。上半身が裸になったところで、覆い被さられ、再びキス。
しながらもデニムを降ろされ、伊吹の手が腹のあたりからゆるゆると降りてきた。
俺は、柄にもないことを言いたくなった。
「伊吹…」
「……はい」
「さっきの、本気?」
「…結婚のことですか」
「うん」
「本気です。……返事は、OKですか」
「……そうだね」
「眞比呂さん」
「うん?」
「好きです……ずっと、一緒にいてください」
「2回目だよ?」
「大事なことなので2回言いました」
2回告白されて、2回プロポーズされるって、俺はものすごく幸せ者なのではなかろうか。
見上げると、安心した様子で微笑む伊吹がいる。
こんな恋愛も、悪くない。
「伊吹」
「はい」
「…愛してるよ」
クリスマスイヴの夜、長らくキス止まりだった俺たちは、やっと初めの一歩を踏み出した。
完
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