37.伊吹

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37.伊吹

なっちゃん! 成功です! いい男って言われました! こんな高い三つ揃え、着たことなかったし、オールバックも気恥ずかしかったけど、お気に召していただけました!さっきから、ちょっと酔いが回って、ほんのり赤いお顔の名波(ななみ)先生が……やたら色っぽい視線でこっち見てます! 大成功です、ありがとう(涙)。ああ、持つべきものは優しい姉。 あとは…あとは…俺が頑張るだけです! 「伊吹(いぶき)ぃ」 名波先生、いい具合に酔ってらっしゃる。 「は、はい、何でしょう」 「ネト○リ見よっか。どんなの好き?」 「えっと……俺はなんでも…」 「うーんと、じゃあ、コレ」 洋画だというのはわかるが、聞いたことのないタイトルだった。どうやら恋愛ものっぽいというか、大人の匂いがする感じ。普段アクションものばっかり見ている俺には難しいのでは…… とか言っている間に、でかいテレビ画面で上映がスタート。 ものの15分で、俺は脇汗が吹き出した。 要するに、これ、ゲイ同士の恋愛映画だ。そうだよね、名波先生が選んだわけだし。 おまけにのっけからかなり濃厚。 ドキドキしながらソファの隣に座る名波先生をチラ見すると、平然としている。そりゃそうか。 結構な近さで座っているのだが、名波先生は画面に釘付けで動かない。 そこで、俺は姉の助言を思い出す。 (お酒が入ってからはいっくんが頑張るのよ。さりげなく距離を詰めて、こっちのムードに引き込むの。向こうもそのつもりなんだから、主導権握ればこっちのもんだからね) わかりました、なっちゃん! 俺は、ポケットに潜ませていたもう一つのプレゼントを握りしめた。 そして、画面が高速道路のシーンに変わって車の音が激しくなったタイミングで、名波先生にそっと近づいた。 俺の予定では、まず画面を見ている名波先生の左手を握り、振り返ったらその手を取って…… …のはずだったのにぃぃぃ!!! 俺が近づいたタイミングで、名波先生もこっち向いちゃって、ちょうど良くチュってなった(照)。 なにこの神展開…BL漫画じゃん(BL小説です)。 「…そっちからしてくれるなんて、珍しいな」 今だ!名波先生がトロンとしてらっしゃる! 「あの、目を瞑って、手…貸してください」 「手?」 名波先生はすんなりと目を瞑り、手を出した。 俺は準備していたプレゼントを、そっと名波先生の手のひらに乗せた。 「え………っ…」 目を開けた名波先生は、手のひらに乗ったプレゼントを見て固まった。 「伊吹…これ…」 映画なんてそっちのけで俺はソファから飛び降り、名波先生の前に片膝をついて見上げた。 「ま…眞比呂(まひろ)さん!俺と、結婚してくださいっ!」 なっちゃん! 言えました、俺、やったよ! 「け…っこん……?」 あら?名波先生が鳩に豆鉄砲顔。 なんか…違った?(違う) スーツに花束、サプライズプレゼントに指輪ときたら、あとはプロポーズでしょ?(違う②) 「伊吹…」 「お…俺はっ…世間的には認められなくても、これからずっと眞比呂さんと一緒にいたいと思ってます!だから……その…」 名波先生、いや、眞比呂さんはソファを降りてしどろもどろする俺の横にちょこんと座った。 「伊吹」 「はっ、はいっ」 「嵌めて」 そう言って、俺が選んだめちゃめちゃシンプルなプラチナのリングを左手に載せて、眞比呂さんは微笑んでくれた。 俺は緊張しながらそれを受け取り、差し出された眞比呂さんの左手を取った。 長くて細い指は、キャッチャーミットのような俺の手とは大違い。 ドキドキしながら俺は指輪を眞比呂さんの薬指に優しく嵌め………ん? 「いっ……いだだだだだっ」 「わあああごめんなさいっ」 「こ…これ、何号?」 「じゅ……じゅうさん……」 「入るか!女子のサイズだろそれ!」 そそそそうなの?ちゃんとメンズ展開のもの選んだはず… あっ! そういえば、眞比呂さんの指は細いという勝手なイメージで、買うときに中でも一番小さいやつでって言っちゃった! 眞比呂さん背も高いし、ガタイもそこそこだし、13号じゃ小さかったのか!(遅い) どうしよう…まさかの最後で致命的なミス! なっちゃーーーーん!!!
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