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 再びアパートに帰ると、トモキが起きていた。 「なんかあったのか?」 「ちょっとねー」 「朝っぱらからうるさかったけど」 「うん、いろいろとね。ていうか、換気ぐらいしなさいよね、帰ったら部屋ん中がお酒臭かった!」 「あー、先輩とウチで飲んでたから。ウチでもう少し飲もうって話になってさ」 「理由は何でもいいけどさー。家じゅうに匂いつけないでよね。もう疲れたからお風呂入って寝る」 「なんか機嫌わりーなー。あれ?」  トモキはスマホを見ながら何かに気づいたようだ。 「……姉ちゃん、さっき帰って来たとき片付けとかした?」 「え? ああ、テーブルとかシンクとか散らかってたからね。なんで?」 「忘れ物なかった?」 「忘れ物?」  私が繰り返した言葉にトモキが頷く。 「なんかシルバーアクセみたいなの。先輩がこの家で忘れていったかもって焦ってるんだ」 「シルバー……アクセ?」  また私が繰り返した言葉にトモキが頷く。  心臓が跳ね上がるような感覚があり、私の頭の中がまた混乱しはじめる。  トモキはスマホに書かれているであろう内容を読み始める。 「なんか……月の上にネコが乗ってるやつだって。そういえば……なんか姉ちゃんも似たようなの持ってる?」 「トモキ、その先輩って……?」  私は恐る恐る尋ねてみた。 「え?」 「どんな人? 年とか、出身とか……名前とか?」 「桐生(きりゅう)さんて人。年はオレの1つ上で、えーっと石川から来たって言ってた」  桐生、石川……年は同じだけど、柏木くんではないのか。  そんな偶然、あるはずないかと思っていると、トモキはとんでもないことを言った。 「あ、でも……昨日、聞いたんだけどさ、オレらと同じ町に住んでたことあるんだって。小学生ん時に」  今度は繰り返さない。  「同じ町に住んでた」と聞いて、思わず私はトモキのスマホをひったくった。  「なにすんだよ!」と怒るトモキを無視して私は、LINEのやりとりをしていた人物の名前を見た。  私はその名前を表す文字列を見てトモキに質問する。 「このカッコはどういう意味?」 「え? ああ、親が再婚してんだってさ。だから旧姓みたいな?」 「再婚……」 「なんか小6ん時に突然お父さんが倒れて亡くなったらしくて、そのままお母さんの実家に引っ越したんだって」  トモキの説明を聞きながら、そして私はLINEに書かれた内容を読みながら、全身が震えるような気がした。  記憶が急速に過去に巻き戻っていく。もう10年近くも前の日に。 『母がここは大丈夫だからって急いでお祭りに行ったんだけどさ、もうその子はいなくて。その帰りに、屋台の女の人にもらったやつなんだ。オレの大切なものなんだ』 「運命的……かも」 「は?」 「神様は、私の初恋まで返してくれたんだ……」 「意味がわかんねぇ」  私の呟きにトモキが顔をしかめた。わかるはずはない、この衝撃は私にしかわからないんだ。  そのディスプレイには『桐生修平(柏木)』と表示されていた。
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