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【 第10話: 家に帰りたい 】
この部屋に落ちた日は、『2011年11月2日 水曜日』。
その日から、もう1ヶ月ほど経っていた。
私は、夕食を持ってきてくれたお兄ちゃんに、この日、思い切ってこう話をしてみた。
「お兄ちゃん、私の足はいつ治るの……?」
「骨はね、くっつくのに半年はかかるんだ。だから、まだ安静にしておかなくちゃいけないよ」
「でも、もう随分良くなってきたと思うんだけど……」
すると、お兄ちゃんは、また急に怖い顔を見せた。
「何を言ってるんだ! 君は医学のことを何も分かっちゃいない! 骨はすぐには再生されないんだよ!」
「で、でも、早くお家に帰りたいの……」
お兄ちゃんは、座っていたベッドからスクッと立ち上がると、更に怖い顔で私を睨みつけ、こう口を開いた。
「真帆、君はもう二度とお家には帰れないんだ! 一生ここで暮らすんだ。僕とね……」
私は、それ以上何も言い返せなかった。
涙さえ、出てこなかった。
それが、幼かった私でも、絶望的な言葉だったということは理解できていたから。
「さあ、食事は終わったね。いつもの痛み止めを飲むんだ」
お兄ちゃんはそう言うと、いつも通り2錠の痛み止めを私にくれた。
でも、この日私は、この痛み止めの薬を1つだけ飲もうと決めていた。
それは、足の痛みが少し治まってきていたこともあるが、この薬を飲むとすぐに眠くなってしまうから、2つ飲んだふりをして、1つだけ飲もうと思っていた。
2つの薬の内、1つを中指と薬指の間に挟み、1つだけ口の中へ入れた。
その様子をお兄ちゃんも見ている。
私は、お水と一緒にゴクリと飲んだ。
そして、その指の間に挟んでおいた1つの薬を、こっそりとベッドのマットの間に差し込み、隠した。
バレていないか……。
お兄ちゃんは、私の様子をじっと見ている。
いつもより、眠くならない……。
でも、お兄ちゃんに怪しまれないように、いつも通り眠い表情を見せて、ベッドに横になった……。
それからのことは、もう全て……、忘れてしまいたかった……。
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