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けじめ
仙寺特製のオムライスを頬張りながら、向かい側に座り同じように食べている仙寺の頬を じっ と見つめる。
この家に来た日も、同じように頬が腫れていた。
親もなく家もなく、住む場所が欲しくて
働き出した水商売の店。
そこでもやはり自分の手が原因でトラブルになり、店長に殴られた際に麻実と仙寺が助けてくれた。
麻実はあの日から「友人」になり、
仙寺とその兄弟の硯と祠は私を「家族」と呼んでくれた。
「何だよ」
「....美味しい」
左頬の湿布の理由を聞こうか悩んで、仄は料理の感想を言う。
「仄さん気にしなくていいよ、
男のケジメだから」
リビングの真ん中に置かれた白いソファ。
壁際の物とテーブルを挟むように置かれた
それは高校受験を控えた末弟の勉強スペース
祠は背もたれから身を乗り出して仄に言った。
「けじめ?」
「そ、一年弱か弱い女の子を苦しめた挙げ句飛び火させた報い」
「要らんことを言うな」
訳が分からず首を傾げると自室から長兄の硯が紙袋 片手に下りてきた。
「仄ちゃん、ちょっといい?」
隣に座り紙袋から出したのは
一台のスマートフォン。
「もっと早く渡せたらよかったんだか、
なかなか時間がとれなくてな」
それを手渡す。
「私の?」
「一応 俺 名義だけど、仄ちゃん用。
うちの連絡先は入れてあるから、
遅くなりそうな時は連絡しなさい」
「ありがとう」
素直に礼を言うと硯は微笑んで
「使った分は徴収するから、
無駄遣いしないように」
「はい」
仄が返事をすると、三人は目を丸くした。
「...何?」
仙寺のスプーンが宙に浮いたままになっているので声をかけると
「いや..急に素直になったから驚いてる」
「は?」
「たった一日だけど、いい経験したんだね」
祠がにっこり笑って言う。
仙寺は少し むっ として置き去りにされていたそれを口に入れた。
「楽しかったか?」
硯の聞かれて少し考える。
正直 身体中が痛いし、今すぐに寝たい位
疲れてる。次から次へとやることはあるし、口は悪いし、嫌みだし...でも
頭に浮かぶ、包丁を握ってまな板に
向かい合う姿。
「大変だけど...やってみたい」
「そうか。じゃあ、やってみなさい」
硯がそう言うと、一枚の紙をテーブルに置いた。
「同意書。持っていくといい、
そのかわり責任 持ってしっかりやりなさい」
「はい」
頷いて返事をすると、硯は満足そうに仄の頭を撫でた。
「帰りどうすんだよ」
食べ終わったのか 仙寺は椅子に仰け反って言った。
「毎回こんな遅いのは危ねーんじゃねぇの」
「藤川君? が送ってくれるんだろ。
若いわりにしっかりした好青年だと思うが」
硯は肘をついて それとも と続けた。
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