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乱暴にお皿をステンレスの調理台に置く。
お皿の上には卵焼き。
祠に教えて貰った、唯一 一人で作れる自信作
「.....。」
「なんでもいいって言った」
ふてくされたまま そう言いそっぽを向く仄
一切れ 切ると手で取って口に放り込んだ。
信也は何も言わずに、何を思ったのか鍋に
水を張ると煮干しをちぎってそれに放る。
湯が沸くと目分量で鰹節を入れ、出汁をとると氷水で冷やした。
「何ボーとしてる」
信也がそう言って仄を呼ぶと卵を割り、とったばかりの出汁を入れ手早く玉子焼を作った。
それを皿に盛り、仄に手渡す。
首を傾げてそれを見ると信也は 食え と
顎を振り合図した。
仄の玉子焼きは砂糖が入っていて甘い。
信也の玉子焼きは砂糖が入って無いのに、出汁の味だけじゃなく卵の甘みを感じた。
「おいしい」
「分かったらやれ」
「は?」
「出汁無くなったら呼べ」
そう言うと作業を再開する信也に取り残され、さっき見た手順を思い出す。
一つ作っては一切れ食べ、信也の物と比べる。同じ材料なのに全くの別物なのが逆に面白くなって、次々と焼いていく。
けれど、出汁が無くなっても同じものは出来ず、拳を口元にあて、唸った。
「それぐらいにしておけ、食いきれねぇだろ」
作業を終えたのか椅子に座ってみていた信也が言った。
調理台にはズラリと並んだ玉子焼き。
仄は難しい顔をしながら卵を一切れ手に取ると口に入れた。
「お前のは家庭料理。俺のは商売品。
一度や二度やった程度じゃ
金取れねえんだよ」
そう言うと信也も玉子焼を口に入れる。
「家庭料理作りたいだけなら
家で教えて貰え」
仄は黙って並んだ皿をじっと見て、
それから信也の顔を見た。
黙々と食べ続ける信也に 帰る と呟いて足早に店を出た。
調理台の上には大量の玉子焼き。
信也は溜め息をつくとそれらをたいらげた。
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