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夕方。
家に帰ると弟が台所を覗き込んでいた。
「おかえり仙兄」
一度こちらを振り向いてそう言うと、また台所を覗き込む。
「どうした?」
「なんかずっとあーやってるから
気になって」
あー とは、髪を結い腕を組み、時折口元に指をあて考え込んでいる仄。
その前のダイニングテーブルの上には大量の卵と鰹節、煮干しがある。
「声かけづらくって」
祠がそう言うのも聞かずに仙寺はソファに鞄を置くと仄に歩み寄り
「何してんだお前」
「....。」
「おーい」
「....。」
真横で声を掛けても全く気付く気配がないので苛立って、仙寺は仄の頭にチョップ。
「痛、..おかえり」
やっと気付いて仄は振り向いて言った。
それを訝しげに見つめる仙寺。
「昨日は酔いつぶれて帰ってくるし、
今度はなんだ」
「あ...ごめん。昨日は..その」
「歓迎会だったんだって、
藤川さんから聞いたよ」
祠が にっこり と笑って言う。
「よかったね」
「...うん」
少し照れくさそうに仄は頷いた。
「良かねぇよ、未成年のクセに酒飲んで
男に担がれて帰ってきて。何やってんだ」
「...ごめんなさい」
頭を垂らして仄が呟くと仙寺は頭を掻いた。
素直 過ぎて調子が狂う。
「仄さんも気を遣って言えなかったんだって。皆に言ってなかった自分の責任だから叱らないでやってくれって、藤川さんが」
「え..」
目を丸くする仄に仙寺は むっ とした顔で
でこぴんをした。
「痛い」
「お前もうちょっと自覚しろよな!」
「..は..?」
訳も分からずに聞き返すが仙寺は踵を返して行ってしまった。
「謝ったのにまだ怒ってる..」
なんで? と首を傾げると祠は苦笑して、
「で、何してたの?」
煮干しを一匹摘まみ上げて言った。
鍋に煮干しを数匹放り込んで水を入れる。
「玉子焼き作りたくて」
「前作ったやつじゃなくて?」
「うん」
鍋の底から泡が立ち始め、鰹節を入れる。
「やってみたい」
真剣な眼差しに祠は そっか と呟くとしばらくそれを見守っていた。
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