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ばち
次の日。
汗だくでビールの補充をしていると晶が声をかけた。
「本当にごめん。
私てっきり二十歳超えてると思い込んでて」
両手を合わせ、拝むように言う。
フロアスタッフがパタパタと忙しくすぐ後ろを通りすぎた。
仄が首を振ると、背後から優子が肩に手を回した。「八城も言えばよかったのに」
そう言うと、厨房から信也が顔を出した。
「あ、信也もごめんね。
片付けもさせちゃって」
晶が笑って言うのを信也は視線をそらし
言った。
「....。言えるわけねぇだろ」
信也は二人と目を合わせずそのまま続けた。
「自分以外全員飲んでて、歳上だろ。
自分等が楽しいからって
全員がそうとは限らねえだろ」
優子は少し むっ として声をあげた。
「それ、うちらのせいって言ってる?」
「誰のためにやってのか考えろ」
信也が優子を見下ろして言うので
晶が止めに入った。
「わかった。すまん、ちゃんと確認しなかった私が一番」
「嬉しかったから」
張りつめた空気に、晶の言葉を遮って仄が言った。三人の視線が仄に集まる。
「仲間みたいで..うれしかった。
一緒に騒げて、楽しくて。
言えなかったんじゃなくて、言わなかった」
ごめんなさい。 小さく呟いて頭を下げる
その肩を四本の腕が包んだ。
「仄ー!」
「八城ー!」
勢いよく晶と優子が抱きついた。
「なんてかわいー子なの!」
「お前は仲間だー!」
大声で叫びながら二人が抱き締めると、あちらこちらからスタッフが顔を出した。
「仄ちゃ~ん!」
よく分からないが抱きつこうとした甲斐を
三人が止めた。
信也は制服の首根っこを掴み、晶と優子はそれぞれ足を突き出す。
呆然と見ていた仄は大きく瞬きをした。
「馬鹿やってねぇで仕事しろ」
そう言うと信也は溜め息をついて厨房に入って行った。
耳元で晶がそっと教えてくれた。
「大丈夫よ。信也は口は悪いけど嫌な奴
じゃないから、他の子が言いづらい事もアイツは言ってくれるし。時々あーやって、釘指してくれてんの。」
「たまにムカつくけどね」
晶と優子はそう言って笑った。
「仄ちゃん飯だよ」
二人が仕事に戻ると、厨房から拓海がお盆を持って出てきた。
今まで店で夕飯など食べて無かった仄は
不思議に思うと、拓海は正面の襖を開け
休憩室に入って行った。
「三日坊主には賄いは食べさせないんだよ。仄ちゃんは合格だから」
そう言って大きなテーブルに豚丼を
2つ置いた。
「ちなみに、賄いはオレか信也さんが作るから。店の様子みて時間ある時に食べないと
食べれなくなるからね」
三日間洗い物しかしていない自分でも食べる時間が無いのに、信也さんなんていつ食べているのか と不思議に思った。
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