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「何、まだ続いてんの?」
甲斐の声も聞こえた。隣の休憩室で話しているようだ。
「何だった?学校行ってないとかキャバ嬢やってて、客やら従業員殴り飛ばしたとか」
それは ほぼ真実だ。
「高校生からカツアゲしてるとか...そんなだったっけ」
「くだらな」
「ほんと若いねぇ、人の悪口言って楽しんでるとか小学生か。」
優子は大きく溜め息をついた。
「あの子も顔に出さないから どんどん
エスカレートしてくし。
仄って、小さい頃 火事にあったって聞いたじゃない。
それも仄が火つけたんじゃないかって。
自分で火をつけたから手だけ後遺症残ってるって、趣味悪い。 ━━━━━━━━
━あの子が親を殺したってなんて言うのよ」
ロッカーを締めようとした手が不意に止まる
父さんの声が聞こえた気がした。
「生きろ」
そう言った父さんは音もなく倒れて..
震えだした手でロッカーを締める。
そのまま、すがり付くようにそれに頭をつけた。
「そんなことあるわけないで」
がらり と襖を開け、ロッカーに荷物を取りに行こうとした足が止まる。
晶は薄暗い部屋の中うずくまっている人影に目を凝らす。
「仄?...ちょっと、大丈夫?!」
ロッカーにすがりつくように膝をつきうずくまっている仄に駆け寄った。
仄は苦しそうに肩を上下させて必死に息をした。その様子を見て晶が休憩室にいる二人に振り向く。
「優子 救急車!早く!」
声荒げる晶の手を勢いよく仄が掴んだ。
「すぐ来るからっ」
晶が眉を潜める程強く手を握り、仄は首を振る。
「だ..大丈..」
「大丈夫なわけないでしょ!」
怒鳴る晶の肩を誰かが掴んだ。
振り向くと上から信也が覗き込んでいた。
身を丸くして必死に息を吸おうともがく仄の姿。
「...紙袋」
「は?」
信也が後ろに立っていた甲斐に手を伸ばす。
「袋、早くしろ」
甲斐は慌てて紙袋を探しに走った。
「過呼吸だ、落ち着け」
皆に言うように呟くと仄の横にしゃがみこみ、声をかける。
「病院は嫌か」
仄は涙を浮かべて頷いた。
一度 溜め息をつくと素早く仄を担ぎ上げた。
晶が集まってきたスタッフに声をかけ、座敷のテーブルをよせスペースを作る。
すかさず優子が座布団を畳の上に並べた。
仄をそこに下ろすと背後に回り膝をついて上体を支えた。
胸を抑えもがく仄の腕を掴まえると信也は
晶に顎を振って 仕事しろ と促した。
甲斐がマックの紙袋を持ってくるとそれを広げ仄の口を覆う。片手でそれを抑えながら信也は落ち着いた声で仄に言った。
「吸うな、ゆっくり吐け」
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