けじめ

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「お前が迎えに行きたいのか?」 「は?違ぇよ。俺はただ」 そこまで言うと口を閉ざす。 「ただ...何だ」 「..何でもねえよ」 仙寺はふてくされるようにそう言うと食器を持って立ち上がった。 小さな金属音。 振り向くと仄が こくりこくり と食器を掴んだままうたた寝をしていた。 「...器用だな」 「子供か」 硯は思わず感心して、仙寺は呆れて言った。 「疲れたんでしょ、    はい仙兄こっち連れてきて」 祠が自身が座っていたソファを整える。 「なんで俺が」 「お前の役割だろ」 「いつ、誰が決めたんだよ」 そんなことを言っているうちに仄の手は食器から離れ、━━━━━━━ 傾く。 「危ねっ!」 仙寺の声と同時に二人の手が体を支えた。 思わず放ってしまった食器がテーブルに 落ち、転がったが仄は眉を潜めただけで  すやすや と眠っていた。 三人の大きな溜め息にも起きず、仄は仙寺に抱えられソファに横になった。 時計は深夜1時を過ぎ、流石に硯と祠も自室に戻り眠ってしまった。 人気がなくなり静まり返ったリビングに 淡い光が不規則に広がる。 仙寺は仄が眠るソファに寄りかかり、床に座ってTVを見ていた。 深夜の映画鑑賞。 特段 見たい映画でも無かったがどうにも 寝付けなかった。 映像を見てはいるものの全く内容が入って こない。 時折 後ろで仄が寝返りを打った。 人の気も知らねえで気持ち良さそうに  寝やがって.. そんなことを思いながら溜め息をつく。 仄が帰って来た際、立っていた男。 信也と一緒にいる仄が脳裏の浮かんだ。 祠の言葉が頭によぎる。         じゃあさ、    仄さんに男が出来たらどうすんの? 「...知るか」 なぜだか無性に腹が立ってきた。 なんで俺がそんなこと 気にしなくちゃいけねえんだ 再び大きな溜め息をついてその場に 横になった。 床は冷たかったが頭を冷やすには 丁度いい 気すらした。 小さな呻き声、ソファから黒い手袋をつけた左手がはみ出した。 命を吸い取るという恐ろしい手。 実際に二人殺めたという死神の手。 それでも、 俺が守る と言った左手。 「なぁ..」 起こさないようにそっと呟く。 「お前にとって俺って何なんだろな」 答えを求めているわけではない。 こいつは『家族』だ。そう教えた。 心細げに伸びるその左手に指を絡める。 「..俺にとってお前は何だ」 再び小さな呻き声。 それと共に絡めた指を握りしめられる。 口元がほころび、目を閉じると急な眠気に、そのまま落ちた。
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