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歓迎
平政に働きに来て三日目。
筋肉痛の体に鞭を打って忙しく走り回っていると閉店後、スタッフリーダーの晶が声をかけてきた。
「今日で三日目おめでとう!」
「....は?」
首を傾げるとスタッフの控え室の襖が
ガラリ と開いた。
軽やかな発砲音と共に紙吹雪が舞う。
「ようこそ、平政へ!」
フロアスタッフ全員が所狭しと座敷に座っていた。
呆然とそれを見ると晶が笑って言った。
「いやぁ、信也のしごきに堪えられなくて
皆、三日と もたなくてねぇ」
「やっと新人が入ったもんだから
嬉しくって」
「ありがたやぁ」
しまいに手を合わせる男はスタッフリーダー甲斐だった。
「ささ、心ばかりですがどうぞどうぞ!」
そう言って席を開ける。
「でも、まだ仕事が」
「いいの いいの、信也の許しは貰ってるから」
ひらひら と手を振って晶が笑う。
フロアスタッフの一人が背中を押した。
大きなテーブルの上にはお菓子やら残り物のおかずが載っている。
「ではでは、仄ちゃんが三日坊主に
ならなかったことを祝して」
甲斐がそう言ってグラスを掲げる。
「言い方」
晶が苦笑いしながら言ったが、それが乾杯の音頭になった。
「八城も何か言うか」
「え...あの、よ、宜しくお願いします」
頭を下げるとグラスを渡された。
「はい、飲め飲め!
明日は休みだ!定休日だ!!」
楽しそうにそう言われ、一口、口をつけた。
つん とアルコールの匂いに慌ててグラスを離す。
「...これ」
「八海山!奮発してもらってきた」
スタッフの一人が言うと歓声が上がった。
フロアスタッフは全て成人。
大学生も交じっているが、
共通点は「お酒大好き」なのだそうだ。
「ビールの方がいい?」
晶がそう言うと栓抜きを取り出した。
慌てて首を振ると、
スタッフ 一人 一人 自己紹介 を始めた。
「信也さんは?声かけてきましょうか」
「いーのいーの、あいつ仕事 命だから」
晶がビール片手に手を ひらひら 振った。
「それで、どうなの信也と晶って」
女性スタッフで一番歳上の優子が言った。
20代後半、いつもは束ねている髪を下ろすと
大人の色香がある。
晶と甲斐とは新装開店の頃からの同期らしい。晶は 平 義政。つまり板長の一人娘。
「どーせ信也がこの店 継ぐんでしょ?」
「てか、もう ほぼ ほぼ 信也さんの店でしょ」
唯一 参加している厨房のスタッフ拓海が答えた。
調理学校に通いながらバイトしている。
「あのさ、板長の娘だからって板前と結婚するとか古いから。私はイタリアンの店を開くのだ!」
拳を作って晶は宣言した。
仄はずっと気になっていた事を口にした。
「あの、信也さんって板長の息子さん
じゃないんですか?」
即座に甲斐が笑って答える。
「あー、違う違う。
信也が 親父 って呼ぶからみんな勘違い
するけど」
「あんな弟がいたら嫌だ」
確かに と笑い声が上がった。
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