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「あ、じゃあじゃあ、私告っていいですか」
フロアスタッフの中でも数人いる女子大生が騒いだ。
晶と優子が 物好きな と言いたげな顔で見返す。
「全然いいけど。
フラれたから辞めますは勘弁」
「はーい」
元気に返事をしたのは茉莉だった
そこから盛り上りを見せ、話題が恋バナになり夢の話になり…次々と話に花が咲く。
楽しそうに大声で笑いあい、目の前で騒ぐ
スタッフ達に戸惑いながら仄はそれを眺めていた。
こんなに大勢の輪に自分が入れるなんて思ってもみなかった。
本当に楽しそうに笑う顔が自分にも向けられると、うれしいような、恥ずかしいような。
...それでいて、現実離れしすぎていて、夢なんじゃないかと思ってしまう。
「主役、全然飲んでないじゃん」
「あ、はい」
急に声がかかり我に返ると、次々と日本酒を注がれた。
「飲め飲め。今夜は無礼講じゃ!」
断るのもはばかられて仄はそれを口にする。
「八城強いねぇ、今度一緒飲み行くか!」
晶に肩を抱かれ、驚くがお構いなしのようだ
「八城は彼氏いないの?」
優子がポッキーをくわえて聞いた。
だいぶ酔いが回って火照った顔を横に振る。
「よし、合コン行こ!」
優子まで肩を抱く。
「はあ..」
「こら、そこの年長者、若者が困ってるぞ」
甲斐が言うと両隣の女子二人が同時に声を上げた。
『誰がおばさんだ!』
「..言ってねぇし」
少しずつ酔いが回ってきたのかスタッフ達のどんちゃん騒ぎも更に大きくなっていった。
時計を見る、ちょうど0時を指している。
「私、ちょっと..」
仄がスマホを持って立ち上がると、晶が手を振って見送った。
「家に連絡?行ってこい 行ってこい」
それからしばらくして、襖が がらり と
開いた。
「お前らいい加減にしろよ」
眉間に皺を寄せ、
信也が仁王立ちで立っている。
それを見て晶は時間を確認すると悲鳴を上げた。
「終電まであと10分?!」
その声にあたふたとスタッフ一同帰り支度を始める。
「...あいつは?」
信也が部屋を見渡して、散らかった酒の量に呆れながら言った。
「あれ、トイレかな」
大量の酒瓶、チューハイの空き缶、ふと
お茶やジュース類が一つもない事に気がついた。
「.....。何飲ませた」
次々と帰っていくスタッフを横目に晶に聞く
それどころじゃない晶は荷物を集めると慌てて靴を履いた。
「八海山。たまにはいいでしょ」
「....あいつ未成年だぞ」
甲斐と晶が同時に驚愕の声を上げた。
「やだ、嘘でしょ。深夜まで働いてるからてっきり」
「晶と優子、滅茶苦茶注いでたぞ。
どーすんだよ」
あわてふためく二人を呆れながら見守ると
大きなため息。
「...分かった。帰れ」
額に右手を当て、左手を上下に振る。
二人は息 ぴったり に手を合わせ
「すまん」
走って店を出た。
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