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誰もいなくなった座敷を見て、再び溜め息をつく。
勘弁してくれ
そう心の中で呟きながらトイレを見に行った。声を掛けてみるが返事がない。
一応 中を覗いてみるが誰もいないようだ。
頭を掻きながら店内を隈無く見回る。
ついでに鍵を締めていくと、裏口のドアが開いていた。
そっと開けるとコンクリートの面に座り、すぐ横に置かれた空ビンの箱の山に、寄りかかるように仄は眠っていた。
「....おい」
声を掛けるが反応が無い。
信也は頬を ぺちぺち 叩いてみた。
眉間に縦皺が寄り、唸り声を上げる。
とりあえず眠っていただけのようだったので ほっ と安堵すると
「起きろ新人」
耳元で声を上げた。
仄は大きく痙攣して目を開ける。
「..はい..」
何度か瞬きをして、目の前にいる人影を確認する。眉間に皺を寄せ、いかにも不機嫌そうに仁王立ちしている ━━━━━ 信也。
「あ、はい」
何が はい なのか自分でも分からずにそう言うと必死に記憶を辿った。
すっかり酔いが回り気分が悪くなって、風にあたろうと外に出たところまでは覚えてる。
そのまま眠ってしまったのか
「お前は自分の歳もわからんのか」
「...すみません」
信也の声が頭に響く。
思わずこめかみに手を添える。
「立てるか」
「はい」
空瓶の箱に掴まり立ち上がると視界が
ふわふわ と揺れた。
手の力が抜け箱に倒れ込む、真横で硝子の
瓶が ぐらぐら と揺れ、ぶつかり合い高い音を出すと大きなため息が真上から聞こえた
右手で仄の背に手をまわし、左手で箱をおさえる形で信也が支えていた。
「すみませっ」
腕に力を入れ慌てて顔を上げて━━ 目が回る
後ろに倒れ込む体を信也の右手が押さえ込んだ。
「下手に動くな、怪我するぞ」
「は..ぃ」
信也は言いながら腰を低くし、
急に小さくなったと思うと
素早く膝の裏に手を回し、仄を抱き上げた。
「あ、あの」
「黙ってろ酔っぱらい」
足でドアを蹴るとそのまま厨房に入っていく。そこにあった椅子に仄を下ろすとグラスに水を入れ手渡した。
無言で差し出されたそれを受けとる。
信也は厨房から出ていくと がさがさ と
ビニール袋を広げ座敷の片付けを始めた。
仄も手伝おうと立ち上がって椅子から転げ落ちる。
グラスの割れる音。
尻餅をついたまま破片を拾おうとして怒鳴り声が飛んだ。
「触んな」
「...はい」
頭を垂れ、じっとしてると信也が箒を持って来ては仄の視線にあわせてしゃがむ。
「動くな、触るな、じっとしてろ」
「すみません」
「お前に怪我された方が困る」
素早く破片を拾うと信也はある程度 片付けを済ませ、タクシーを呼んだ。
「お前の荷物 これだけか」
仄の鞄を手渡すと
もう一度水を入れ仄に飲ませる。
タクシーはすぐに来た。
「行くぞ」
グラスを片付け仄の腕を取ると手慣れた様子で素早く背負った。
有無を言わせずタクシーに乗せられると店の鍵を掛け信也もそれに乗った。
揺れる車内、外を眺め仄は再び眠ってしまった。
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