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それに気づくと顔を真っ赤にしたまま
ずかずか 入っていって信也の足に蹴りをいれた。
「危ねぇな」
「馬鹿なこと言うから」
「少しは懲りたか」
口元で笑ったまま、信也はレモンを取り出して薄切りにしていく。
「無理に周りに合わせる事ねぇんだよ」
「.....。」
「どうした」
帰らないのか と言いたげに信也は
仄を見た。仄の視線が自分の手元を見ているのに気がつくと、肩をすくめた。
「お前も暇だな」
そう言って定位置を指差した。
大きめの保存容器に砂糖とレモンを交互に何枚も入れて蓋をする。
それを冷蔵庫に入れると
今度は残った半切れのレモンを片手でグラスに絞り、生姜と蜂蜜を入れると炭酸水を注いだ。
箸で適当に混ぜ、一枚だけ残していたレモンを浮かべると仄に突き出した。
「飲んどけ 酔っぱらい」
「もう酔ってない」
むすっ と答えながらそれを口にする。
手作りジンジャーエール。
「美味しい」
目を丸くして言うと信也は口元で微かに笑い、さっ とまな板と包丁を水で流した。
今度は梅干しを取り出して細かく刻んでいく。何個か切り終えると、新たに準備した梅干しを今度は潰して先程の物と合えるとポン酢で伸ばし始めた。
それをパスタ用の瓶に入れ冷蔵庫にしまう。
他にも似たような瓶が並んでいるところを見ると、ドレッシングなど保存がきく物をまとめて休日に作っているようだ。
「ただ見ていても暇だろ」
仄は首を振るが信也は壁に掛けられた時計を見た。PM2:00。
「昼飯」
「は?」
「なんでもいいから昼飯作れ」
「.....帰る」
慌てて調理場から出ようとする仄を横目で見送ると、ふと信也は天井を仰いだ。
「そういや、昨日の片付けやらで朝飯も食ってなかったな」
「....。」
「飲み散らかしたまんまだし、
グラスは割るしな」
調理場の出口は全部で3つ、東・南・西とくり貫いたように空いている。唯一ドアのついた南から出ると裏口はすぐそこだ。
仄はそのドアに手を掛け立ち止まり、拳を握りしめる。
「でろんでろんに酔っぱらった奴
担いだしな...肩いてえ」
ふてくされた顔で振り向くと仄は冷蔵庫に向かった。
口元で笑ってそれを見送ると信也はまな板に魚を置き捌き始めた。
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