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絶望のあまり辞世の句を読み始めた永喜の背中を、
顔を洗って少しは見栄えが良くなった仁が引っ叩く。
「おいジジイ、祈ってないでさっさと支度して行ってこい」
「でもねぇジン君、上の方々怖いんだよぉ……。
あの机にへばり付いたハエを見る眼、
思い出しただけでも寒気が……うぅう」
今にも泣き出しそうな声で永喜が言う。
司令の肩書には何とも似つかわしくない頼りない言動だ。
「頭下げりゃ許してくれるって。
ホレ、ジジイが行かなくて困ったことになるのは部下のオレ達なんだよ」
「ハァ……分かったよ。
あぁ……マイッチング。
……早乙女、出動します」
「「いってらっしゃい」」
一同が声をそろえて永喜を見送る。
蝉の声が五月蝿い初夏の日。
今日は雲一つない快晴だ。
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