1節

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 絶望のあまり辞世の句を読み始めた永喜の背中を、  顔を洗って少しは見栄えが良くなった仁が引っ叩く。  「おいジジイ、祈ってないでさっさと支度して行ってこい」  「でもねぇジン君、上の方々怖いんだよぉ……。  あの机にへばり付いたハエを見る眼、  思い出しただけでも寒気が……うぅう」  今にも泣き出しそうな声で永喜が言う。  司令の肩書には何とも似つかわしくない頼りない言動だ。  「頭下げりゃ許してくれるって。  ホレ、ジジイが行かなくて困ったことになるのは部下のオレ達なんだよ」  「ハァ……分かったよ。  あぁ……マイッチング。  ……早乙女、出動します」  「「いってらっしゃい」」  一同が声をそろえて永喜を見送る。  蝉の声が五月蝿い初夏の日。  今日は雲一つない快晴だ。
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