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八.
やがて車は遊佐木の研究所へと辿り着き、自称カッパが途中の紳士服屋で購入したスーツに着替え、新たな職場を興味深げに眺め回している姿に、
「余計なもの触るなよ?って……スーツなんか着てそれっぽくなってるけど、中は?あの下着は脱いだのか?」
徹が不機嫌そうに尋ねると、
「下着って……あぁ、鱗のことですか?いやいや、あれは体の一部なんですよ、カッパってそういうものじゃないですか。なぜか絵とかには描かれないみたいですけど、カッパはみんなこの辺りにだけ黒い鱗が生えてるものなんですよ、ご存知ありませんでした?」
と自称カッパはスーツの上から胸と股間を押さえて見せた。
「くそが……まだカッパの設定で引っ張るつもりなのか?先生、やっぱり僕ちょっとこいつと同居なんてさすがに無理……って、あれ、またどこか行くんですか?」
苛々と遊佐木を振り返ると、遊佐木は何やら衣服や小型の測定器を大きな鞄に詰め込みながら、
「あぁ、自称だろうがなんだろうが、カッパだと主張している限りはカッパとして扱うことにしてだな、ならばカッパであることを盾に、人間では決してできないような、倫理やコンプライアンス的な問題を一切無視した、面白おかしい各種の実験台になってもらおうと思ってな。とりあえず『スカイダイビングでパラシュートが開かず地面に落下したが生還した人がいる話』が本当なのかを確かめに行こうと思うのだが、どうだろう」
と、長い黒髪を翻し二人に向かって爽やかに微笑んだ。
「……お前、謝るなら早い方がいいと思うぞ、この人マジでやると言ったらやるからな」
徹が自称カッパに小声でささやく、が、自称カッパは首を振った後に強い決意に満ちた眼差しを徹に向け、
「それでも……私はカッパなのです」
「よし、行こう」
自称カッパの腕を掴むと、遊佐木は嬉しそうに入口へ向かって歩き出した。
「うぅーん……止めた方がいいような、でも止める気が起きないような……」
などとその後姿をしばらく静観していた徹だったが、
「って、いや、やっぱり駄目ですって!先生!即死するような実験はさすがにまずいです!せめてとりあえずはそいつ曰くの『鱗』をはがしたらどうなるのかって実験ぐらいからにしないと!」
と慌てて二人を追って走り出した。
終
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