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バッドエンド浦島太郎(お題)
助けたカメに連れられて竜宮城にやって来た我らがモテ男、浦島太郎。タイやヒラメの舞を堪能し、乙姫の接待を受けていたが、数日経ちさすがに飽きてきた。
「太郎さん、ずっとこちらにいらしてね」
「そういうわけには行かないよ姫、私はそろそろおいとまする」
「誰か良い人でも待っているの?」
乙姫の色香に惑わされ連泊してしまったが、いい加減家に戻らねばならない。何故なら幼馴染みのかわいこちゃんや、漁師連合の奥様方が太郎を待っているからだ。
色男はつらい。この身がひとつなのが恨めしい。
「あぁ太郎さん、つれない人。ではせめてこの玉手箱をお持ちになって」
「玉手箱?」
美しい細工の施された箱が、乙姫の手にあった。
「これを私と思って、お傍に置いてくださいまし。でも決して蓋を取ってはなりません。カメや、太郎さんをお送りして」
今生の別れに涙を流す乙姫を後目に、帰還する太郎。
「太郎さん、先程の玉手箱でございますが、このカメに譲っては貰えませぬか」
道中カメが言葉丁寧に提案してきたので、太郎は首をひねった。
「お持ちいただいても、中を見ることの出来ないもの。無用の長物にござりますれば……」
「何故欲しがる?」
「実はこのカメ、乙姫様に懸想しております」
「懸想」
「人ならざるこの身、姫様とは決して交われないのです」
「それは辛かろう。わかった、玉手箱をカメに譲ろう」
哀れんだ太郎は、故郷の浜辺でカメと別れる間際、玉手箱を手放した。
カメは何度も太郎を振り返りながら、海の底に戻っていった。
「家に戻ろう……おや、ここはどこだ?」
改めて周囲を見渡すと、霧が立ち込め、記憶にない風景が広がっていた。
「玉手箱をお傍に置いてと申しましたのに」
天から乙姫の声が響いた。
「これを手放した人間の男は、玉手箱の中に閉じ込められてしまうのですよ」
カメが淡々と太郎に語りかける。
「所詮は乙姫様に相応しくなかったということ……わかりましたか?」
「ええ、カメ。また新しい男を招いておくれ」
天が暗闇に閉ざされた。玉手箱の蓋が完全に閉じたのだ。
冷たい海水に満たされた静かな闇が太郎を包み込んだ。
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お題
硯羽未さんは浦島太郎を、カメを悪人にしてバッドエンドにしてください。
#shindanmaker #オリジナル昔話
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