11人が本棚に入れています
本棚に追加
アジフライはからりと揚げて
俺の行き着けの店『ちろり庵』は、手拭いを頭に巻いた甚平姿の親父が一人で切り盛りしていて、落ち着いた雰囲気が好きだ。
「アジフライ定食あります?」
「いらっしゃい。今日は一人かい」
「待ち合わせですよ。もうすぐ来るはず」
約束の時間には少し早かった。
薄暗い店内でアジフライ定食を待つ間、先にお願いした八女抹茶を口に含む。美しい緑色をした抹茶が口に広がり、渇いた俺を潤した。
「はー……生き返る」
「仕事お疲れ様。はい、アジフライ定食お待ちどう」
目の前に置かれた二尾のアジフライと千切りのキャベツと添え物、五穀米の盛られた茶碗。
からりと揚がったアジフライは俺の胃を刺激したが、待ち人がまだやってこない。先に食べて待っていようか悩んでいたら、出入口の重い扉がちりりんと音を立てて開いた。
「遅くなったー、悪い!」
「ああ……三分遅刻だ。何を頼む」
「おっ、アジフライうまそうじゃん! 俺も同じの頼むわ」
注文を入れようとしたら、奥から庵主が申し訳なさそうに謝罪した。
「アジフライはそれで最後なんだよ、すまないね」
「──えっ、……じゃあ、えーと」
メニューを睨んでいる連れの前に、俺はアジフライの一尾を乗せた取り皿を置いた。
「注文来るまで、それ食ってろ」
「えぇ~っ、いいのおー」
大袈裟に喜んだ連れは、別のメニューを待つ間、俺がやったアジフライを旨そうにつついている。
「おまえのもなんか寄越せよな」
「おけおけ、体で払うわ」
「はぁ? おかずを寄越せって」
「うーん、イケズ。欲しいくせにぃ」
訳のわからないことを言って軽く笑っている連れに、ため息が出た。
最初のコメントを投稿しよう!