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世の中で、要らないものが幾つかある。 その一つが、目の前で繰り広げられてる痴話喧嘩。 スモーキーな味わいの琥珀の液体を飲みながら、母屋の出窓越しに鑑賞する。 俺の方は真っ暗、彼女の方は白熱電球の柔らかな灯りに包まれてる。なので丸見え。 俺が不在だと思ったのか、いつもの様にスクリーンで隠してもいない。 2つの隔たりに遮られ、2人の声は聞こえない。無声映画だ。 舞台に上がってるのは、美希と翔琉。 本当の喧嘩に発展しないのは、その表情で分かる。 じゃれながら口論してる。 時折翔琉が母屋の方を指差すのは、俺の事をコケ下ろしてるのか。 結局、佐竹美希と俺は今まで数回しか寝てない。彼女のガードはとにかく固かった。 だが一旦許されれば、彼女は乱れた。 その都度、彼女は何か殻を破る様に成長していった。 破壊と創造。 俺とのセックスで、それを得ていく姿に満足を覚えたが、一抹の哀しさも覚えた。 多分、愛ではない。 ただ彼女の伯母が亡くなった時、葬儀を終えた彼女が真っ先に俺のもとへ来たのは、嬉しかった。 しとしと雨が降る中、母屋の出窓下に咲く紫陽花と彼女を見た時、突き上げた歓び。 俺は虚脱している彼女を優しく抱き締めた。 雨なのか涙なのか分からない彼女の頬の水滴を拭い、初めてキスをしたあの日。 放心してた彼女も次第に応えていった。 貪り合い、お互い求めた。 もう、この痛みは慣れた。 だけど、ここから先は見たくない。 どちらとも知れず口付けし、立ちながら絡み合う美希と翔琉。 グラスをサイドテーブルに置くと、俺は寝室へ入った。
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