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暗闇の中、目が覚めた。 手のひらについた昨夜の残滓が乾いていた。 寝室から出て両手を丁寧に洗い、浴槽に湯をはる。その間に髭剃りと洗顔に取りかかる。 カミソリを操りながら、バスルームの天井近くの開口部を鏡越しに見ると、夜の濃度が薄くなっていくの分かる。 剃り終え衣服を脱ぎ、体を洗い風呂に浸かる。 「ふう」 自分の中の澱が浮上し溶け出ていく様。 スッキリとする。 その時、先程の開口部から微かに鼻歌が聞こえた。 …随分ご機嫌じゃないか、翔琉のヤツ。 黒い気持ちが生じ、また心に沈む。 チャポン 湯船に体を沈め、頭まで数秒浸かった。 「ぷはっ」 湯から顔を出し水気を払い、髪の毛を撫で付ける。 彼女に溺れてる? 俺が?翔琉が? 俺が美希に魅了されてるのは否めない。 最初セックスに不馴れな感じがしたのに、回を重ねる毎オネダリが上手になり、主導権を取る時もあった。 体つきも前職を辞めた頃は貧相だったのに、適度な食事、運動、セックスで、今では幾分艶っぽくなった。 最初は俺が、今では翔琉が作っているのか… 水音を立てて浴槽から出る。 立ったまま髪の毛を洗い始めた。 親譲りの天然パーマが指に絡まる。 彼女の変わり様はそれだけじゃない。 エンタメ業界に身を投じて稼ぐと決めたら、トコトン学び実行した。 『天性のモノがないなら、努力有るのみでしょ』 いつの日か情事の後、彼女は苦笑いしながら言った。 俺とのセックスは稼ぐ為なのか? 彼女に芸の肥やしにすればと持ち掛けたに、自分で拗ねる有り様。 俺らしくない。 今までの情人とは、そこ止まりで良かった。 別に心が欲しいなんて思った事もない。 『らしさ』を取り戻す為に、少し離れてみたらいつも通りになると思った 仄かな危惧は感じたが、彼女と翔琉のセット売りをチイに提案した。 チイは、 「良いの、それで?」 と首を傾げた。 チイには今の俺が予見出来てたのだろう。 馬鹿な俺。 嫉妬、独占欲…負の側面も丸飲みし、色欲を楽しめると思っていた。 唯々、苦しい、辛い。 シャワーで勢い良くシャンプーを洗い落とす。 今日も1日が始まる。
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