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ドアを閉めながら、吐く息が白い。
この時期ならではの現象。
今じゃ防寒に優れた高価な手袋をしているのに、つい癖で両手を口元にもってく。
背後でガチャリと音がした。
シマッタ!鉢合わせか…
人の気配と共に、母屋の玄関ドアの施錠を知らせる電子音が響く。
「おはようございます!」
私は深呼吸すると、パッと振り返り笑顔で挨拶した。
「…」
不機嫌な目つきでこちらを見る津久井。
彼のこんな表情は稀だ。
公の彼は冷徹な事業判断を、今の私みたいな作られた笑顔かチャラい態度で覆い、本心を見せない。
プライベートも然り。
視線を絡ましてると、コートの襟元から冷気が忍びこんでくる。
「お先、失礼します」
街が本格的に音を立てないうちに、出掛けたい。襟元をかき合わせながら会釈した。
「随分ご機嫌だね?」
立ち去ろうとした私の胸元にある手首が、急に捕られた。同時に低い声で問われる。
ああ…見られてたか。
「えっ別に、普通…」
ですよと私が言いきる前に、
「止めろ!その嘘くさい笑顔!」
津久井が声を荒げた。
…ホント珍しい。
彼は急に声音を変え、
「翔琉を泊めたんだ~」
泊めたというか日帰りというか…なんて馬鹿な事を考えながら、私は彼を見つめた。
やっぱり痩けてる、津久井の顎のラインがシャープになっている。
どうして?
私は掴まれてる手首に目を落とし、
「…痛いんで離して下さい」
津久井は力を弛めたが、離さず、
「アイツはヨかった?」
誰と比べて…
お互い、睨み合う。
2人の間で溜まったモノが、放電し始める予感。
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