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玄関を出ると、彼女がいた。 肩胛骨の辺りまで届く黒髪が艶やかに光っている。 たった今、俺の後ろで自動で閉った扉の音に、こころなしか彼女の背中が震えた気がした。 母屋の電子鍵と違って、アナログキーで扉を閉めてる彼女を堪能した。 あの後ろ姿は、俺が背後から抱きすくめたら、もう一度震えるのだろうか… 戸締まりをした彼女が振り向き、笑顔で俺に挨拶をする。 まともに顔を見るのは久し振りだ。 己の鼓動が若干早くなった気がする。 だが、その顔が気に入らない。 先刻耳にした翔瑠の鼻歌、 今、目の前で笑っている彼女、 昨夜抱き合ってキスをしていた2人…それらが相まって、俺の中でドス黒い感情が湧き上がる。 ささやかな庭の樹木を寝床に、鳥達がさえずっている。鳥だって朝の挨拶を交わしてるのに、俺は彼女の挨拶に応えないまま近付いた。 彼女の暖かそうな手袋とコートの間に覗く、細い手首を見た途端、体が先に暴走し彼女を力強く捉えた。 同時にコントロールしなければと思う葛藤で、我知らず低い声が出た。 「随分ご機嫌だね?」 誤魔化そうとする彼女が、一段と笑みを深くする。間近で作られるその顔にカチンときた。 「止めろ!その嘘くさい笑顔!」 俺が放った大声で、鳥達が一斉に朝の空に飛び立った。 カチャン 彼女が握っていたキーが落ちた。 強く手首を握り締め過ぎたせいか、 彼女が俺の激昂に驚いたせいか、 静謐な朝の空気の中で、俺の感情だけが煮えたぎっている。 余りに冷静な彼女を見つめていると、焦りから、絶対聞くまいと思っていた言葉が滑り出た。 「アイツはヨかった?」 俺を睨み付けた彼女は、ふぅと一息つきながら背を曲げる。その際、拘束していた手首が離れる。 「もう止めましょうよ。そういうの」
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