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耳元に唇を寄せ、イヤらしく流し込む。
「啼いて欲しがったのは、誰だったっけ?」
彼女を陽が昇る世界から、月もない闇夜に連れ戻したい。
外界の音が遮断出来る、あの寝室に再び引っ張り込みたい。
そうしたら2人の世界になれるのに…そう願いながら俺は、彼女の耳朶を食む。
耳周りが弱い彼女は、微かに震えた。
お互いの下半身が布越しに触れている。
爽やかな朝なのに、俺達のまわりだけ淫靡な気配になる。
多分、彼女には昨夜の残りが、
俺には溜まったフラストレーションが、
着火材になった。
俺は扉に手をついたまま、立ち尽くす彼女に身体を擦り寄せ、唇を貪った。
彼女は身動ぎもしないのに、唇同士が追いかけ合うキスをした。
舌を絡め、溢れる唾液をお互いが掬う。
背丈が変わらぬ俺達は、首を激しく動かし求め合った。
息が上がる。
心拍数は確実に上昇している。
なのに彼女は俺の胸元をそっと押した。
食らいついていた俺の唇が離れる。
2人の間に糸が延びた。
「……」
見つめ合いながら、息を整える。
濡れた口元のまま一瞬だけ視線を落とし、彼女は毅然とした態度で
「これで満足?」
そう言って、俺の囲いから出てく。
俺が彼女を目で追っていると、数歩離れた先で振り返り、
「…今度、ここを出て行きます。今まで有り難うございました」
別れの挨拶と共に律儀に頭を下げ、彼女は足早に立ち去っていった。
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