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母屋の暗がりの中で、何か煌めいた気がした。
彼がいるのだろうか?
窓越しに目を凝らしても闇が深い。
気のせいか。
私と翔琉が母屋の出窓前を通り、離れの鍵を開けた時、母屋はひっそりとしていた。
翔琉はいつもの様に、ここから引っ越せと言う。
しかし私は立地もさることながら、温室を改造したこの離れが気に入ってる。
キッチン以外の水回りを備えている、もとは津久井家のゲストルームだ。
今後の利便性を図る為、そこに住めと津久井に提案された時、抵抗を覚えた。
だがいざ内覧してみると、施錠もしっかり出来るし、何より素敵なレイアウトに心を捕まれた。
元の用途らしく青々とした観葉植物達。
三方ガラスで空も見える。
床暖房。
天蓋付きベッド。
猫足のバスタブ。
私は其処に小ぶりの冷蔵庫と電気ケトルを持ち込み、簡単な飲食が出来る様にした。
更に、観葉植物の鉢を移動したりスクリーンを設置したりして、母屋からの視線を遮った。
スカウトされた2年前に比べ、格段に忙しくなった私。
今や此処は、私の癒しの空間だ。
そう言うと翔琉は『もっと良い処あるのに』と肩を竦める。
翔琉に頤を上げられ、啄む様な甘いキスから始まり、お互いが抱き合う深いキスに変わる。
今夜はスルのだろう。
2人のオフが合ったのは久し振りだ。
こうやって私が気分や流れに身を任せ、容易に素肌を曝せるようになったのは、津久井のお陰だ。
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