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それが一転したのは、数ヶ月前。 久し振りに彼女と姿勢と所作のトレーニングが一緒の時間になった。 互いにソロで売れ始めてからは、意識的に距離を置いた。 事務所からの指示だった。 いつまでも弟キャラを演じないで、今後はそのイメージを払拭し幅を広げる。 僕達はどこまでいっても操り人形…と腐る気持ちが時々生じる。 それを打ち消すのはファンからの応援の声。 『今までと全然違った演技で驚きました』 『悪役も似合うね』 『初めての舞台頑張って!』 等。 「美希さん!」 「翔琉さん…」 「あれ?顔色悪いけど、大丈夫?」 その日、美希さんは明らかに元気がなかった。 美希さんは僕と違い、本名の佐竹美希から採った『美希』という芸名で活動していた。 僕は近付いて、彼女の額に手を置いた。熱はない。 「…平気」 「体調悪かったら今日休んだら?先生まだ来てないし」 「体じゃなくて…一昨日、伯母の四十九日行って少し気持ちが落ちてるの…かな」 美希さんは髪をかきあげ笑顔を作る。 そうだった。 訃報を聞いて僕も葬儀に駆けつけようと思ったが、通夜も本葬も外せない仕事が入っていた。 かきあげて止まったままの手首を取り、 「ああ、まだ全然辛いよね…無理しないで」 彼女の顔を覗き込む様に(いたわ)った。 僕は耳にタコって位彼女から、伯母さんがどんなに素晴らしいか、どんなにお世話になったか、慈愛に満ちてるか聞かされいた。 楽屋で郷里の話が出ると必ず最後は、伯母さんの容体を案じる悲しい顔つきに彼女がなるので、自然としなくなったのだ。 途端に覇気のない瞳になる。 この切り替えの早さは、彼女の武器の一つだ。 「有り難う…」 「あ~僕も付き合いたい」 彼女の気分転換あるいは癒される何かに、僕もトレーニングを休んで付き合ってあげたい、という意味だった。
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