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落とし物の語源。
お年を召した者が記憶を落としていくさまから。
私はその落とされた記憶を拾って、焼却炉に捨てる仕事をしている。
落とされた記憶は放置されていると、妖怪になってしまうので、毎日処理しなければならない。
楽しい記憶は楽しい妖怪になるが、大体落とされる記憶は悪い記憶だ。
お年を召した者が傍若無人になりがちなのは、悪い記憶を失って、後悔を忘れ、また一から暴れているからだ。
温厚な性格になる者もいるが、それはそれで悪い記憶を失うことにより、穢れが無くなるからだ。
とにかく路上には悪い記憶がたくさん落ちている。
それを拾って焼却炉に捨てる仕事。
悪い記憶に触れると、その感情が体の中に流れ込んでくる。
だからこの仕事を行なっている者は私も含めてまともじゃない。
そう、私たちのような、どんな悪い記憶を触ってもポジティブに思ってしまう、楽しい記憶から生まれた妖怪じゃないとできないのだ。
それなのに、この少年は何でこの仕事をしているのであろうか。
そのことを聞いてみると、その少年はこう答えた。
「僕の両親の手掛かりを探しているんだ。だから妖怪さんたちにも、どんな記憶だったか聞いてまわっているんだ」
彼は若い。
だけれども、なんとかして彼の悪い記憶が落ちることを私は願った。
(了)
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