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気配がする。
後ろを振り返る、が誰もいない。
最近、誰かに付きまとわれている気がする。
今日はバイトの帰りで、遅くなってしまって辺りは既に薄暗い。
夏の時期でまだ明るい方だが、帰り道は人通りの少ない小路を通らないといけないので、人が身を隠すには持ってこいである。
「誰かいますか?」
後ろに声をかける。
「いませんよ」
……まさかの返事。
「やっぱり居たんだ!」
つい、ツッコミを入れてしまった。
それに対して、向こうも自分の愚かさに気づいたようで、電柱の影から何かが走り去っていくのが見えた。
追いかけてみるが、あっという間に姿が見えなくなってしまう。
入り組んだ地形だから、路地に逃げられると直ぐに分からなくなってしまう。
「あれ?」
何かが地面に落ちているのに気づく。
掌サイズの、四角い何か。
おもむろに落ちていた”それ”を拾い上げる。
――――あ、これ。
見覚えがあった。
表紙に金の文字で『宇都宮中学』と記載されている。
うちの学校の生徒手帳だ。
内心、申し訳ないと思いつつ、中身を確認する。
パラパラ、とページをめくると、本人の顔写真が掲載されているページに辿り着く。
「え?」
意外だった。
いや、意外すぎる。
そこに乗っていた写真は女子生徒。
『日高(ひだか)綾乃(あやの)』
絹のように艶のある長い黒髪と、すこし吊り上がった目。
目鼻の整った顔立ちで、写真の顔は不愛想。
学校でも”色々”な人気を誇る女子生徒。
そんな彼女を呼ぶ声は。
――――『曰く付き物件』
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