第一章

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颯が理科準備室で心の叫びを上げる前の日。 この教生は、日本で1番難関大学に在学している3年生の岡田優也と言う。教生はこの学校の卒業生で颯達の先輩にあたる。 目が颯よりキリッとしていて、鼻筋も通り、かっこいい部類なんだろう。メガネをかけているからインテリに見えるし、何より颯より身長が高くスラッとしている。 声は少し引くくて一輝とは違った、いい声している。 その彼が颯のクラスで教鞭をとっている時、颯はつまらなくて授業を全く聞かず、窓の外を見ていた。 それを咎められた、颯だったが生意気な態度を取っていた。しかも、勝手に教室を出て行った。 颯みたいな”天才”には、普通の高校の授業はつまらないだろうと教生も思った。 それに、この学校の校長にも言われていた。 「吉田君は、とても優秀な子で岡田君が在学している学校に入学出来る実力があるんです。だけど、本人がその気にならない。卒業生で、ただ1人難関大学に入学出来た岡田君なら、吉田君を説得できるはずです。我が校から、難関大学の合格者が出る事は名誉なことです。お願いしますよ。我が校のために。」 教生は、今も昔も、自分達の名誉しか考えない校風に 吐き気がした。 だが、分かりました。と、知的に笑った。 それが、世渡りってやつだと教生は思ったのだった。 学校の為にどうこうという気持ちはサラサラないが、吉田颯には興味が出てきた。 颯に興味もあって、この生意気な態度だ。教生は、ちょっと意地悪をしてやりたいと思ったのだった。 天才を教育するための”特別授業”をしてやろうと教生は思い、放課後居残りさせようとしていた。 授業が終わり休み時間になった直後、教室を勝手に出て行った颯が戻ってきた。 教生は、何となく気になりその様子を廊下から見ていた。 颯は、嬉しそうに、一輝の傍に行き何かを喋っていた。 だが、一輝は勉強を優先にし、颯を軽くあしらっていた。そんな彼を、愛おしそうに見ていたと同時に苦しそうに見えた。 教生は、恐らく颯はゲイで一輝はノーマル、しかも颯は一輝の事が好きなのだろうとピンときた。 そんな苦しいなら、教生が慰めてやろいかとも思った。 教生も颯と同じゲイ。 そして、最近の教生の好きなタイプは年下で生意気だけど自分だけを思ってくれる一途な男の子。 頭も良い颯の様な子がタイプだ。 放課後、教生は、理科準備室に颯を呼び、分厚い化学の専門書を読ませた。教生でもなかなか読み込むまでに時間が掛かった。 颯は、30分ほどで全て読み、全ページの文字一語一句暗記した。しかも、考察も完璧だった。 颯は、本当に天才だと教生は自覚した。 だが、その能力は宝の持ち腐れで、本人は一輝と一緒なら楽しいからそれでいいと言う。 教生は、ずっと一緒は恋人や家族だけだと、颯に言った。 "それに、一輝だけが全てだと、彼に拒絶された時、お前は壊れてしまう。" 颯は、恐らく誰も見たことが無いであろう、怒りの感情を教生にぶつけて来た。教生を睨めつけ、胸ぐらを掴んだ。 「お前には関係ないだろ、ほっとけ。」 いつも少し高めの声が、信じられない低い声になっていた。 たった1日で、教生は颯の本当の颯自身を見る事が出来た。 教生は益々興味、いや好意を抱いたのだった。
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