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調査1日目、探索開始
―上陸―
「朔の日は、昼に全島浮上するから、その前が環状浮上、その前に浮上しているのが、15《じゅうご》、とおのいつつだ。そちらに寄せて船を停めれば、3時間は動かさなくていい。円の日は、24時間全島浮上している。必要なら、浮沈の循環を止めることもできるが、これには、島に掛けた術を、一時的に停止しておくための、強制力が必要になる。今回の目的が調べることであるならば、避けた方がいいと思うのだが」
ゼンの言葉に同意して、時間の掛かる確認は、円の日に回すことにし、今回の調査は、来週の円の日までとして、翌日の暁の日の朝、帰国することを、暫定として決めた。
カサルシエラ到着は、今日、辺りが明るくなる5時から7時までに浮上中の、とおの島か、とおあまりひとつの島の西側を目指し、先遣隊となるジュールズやカリたちを、行動開始の8時に浮上する、とおあまりみつの島で降ろして、バルタ クィナールは、とおあまりいつつの島の北西辺りに待機することに決めた。
島の正確な浮沈周期を聞いて、複数の島が浮上する3島浮上と環状浮上と全島浮上ならば、連続して複数の島を確認しながら移れるし、同時に比較ができる、と、そのように調査手順を決めた。
やがて、ちょうど浮上しているカサルシエラの陸地が視認できる頃、起き出してきた旅の仲間たちとともに、船尾楼屋上での早朝鍛練でボールトーガたちと親睦を深めた。
透虹石の鳥獣たちと人々は、7時になると揃って朝食を摂り、身支度を済ませて、船を降りる者たちは、時間になると飛び出していった。
残った人々と鳥獣は、未明に話し合われたことを聞き、旅の予定の流れを知ると、それぞれ、待機状態に入った。
ミナは、船尾楼の屋上に出て、潮風を受けながら、一旦、島があると言う東南一帯を眺めた。
先ほど通り過ぎてきた、現在浮上中の、とおあまりみつの島を視認することはできない。
術の効果もあるのだが、それがなく、双眼鏡などの視力補強をしたとしても、見られるのは、隣の島までだろう、という話だったので、どちらにしろ見えないのだ。
「きた、ふた、みつ、よつ、いつ、むい、なな、よお、ここの、とお、とおあまりひとつ、とおあまりふたつ、とおあまりみつ、とおあまりよつ、とおあまりいつつ」
島々の正式名称を丁寧に、順に呟いて、胸に刻む。
きたは朔のことで、方角の北に掛けてそう呼ばれており、中央にある、きたの島を北側に見て、そのほかの島の名称が確定された。
とおあまりひとつ以降は、とおまりひと、などと崩して呼称したり、あまり、を、の、に代えて呼称したりもする。
現在では、0から9までの数字を定めたので、1、2、3、4、5、6、7、または、7、8、9、または、9、10、11、12、13、14、15と呼ぶこともある。
ちなみに、通常の生活上であれば、四や4は、し、とも読むが、4の島と14の島については、よん、と呼称する方が、彼ら島を知る者たちにとっては、咄嗟の判断など、理解の上で、通りが良い。
このように、数、という、順序を示すだけの名称なので、制限時間1時間では、それぞれの島を個別認識することは、難しそうだと、ミナは少し、困っていた。
位置を知ることは難しくなさそうだが、配置だけの認識では、心許ないのだ。
「これは、長期の仕事になるな…」
「そんなものばかりだろう」
デュッカに言われて、振り返る。
「そうですけど。例えば、ザクォーネ王国の時は、全く様子の違う町ごとに、1ヵ所ずつ要石を据えたでしょう?それらを扱う人もいたから、そういう、区切り…あ、目印か。それが、個別認識し易くしてくれたんです。カサルシエラって、それで、ひとつと捉えるのは、うーん、やり難いと言うか…」
ミナは、島の在る方を振り返って、続けた。
「もっと、何か、楽な方法がないかなって、思ったんです…」
「楽か…」
「名前以外に、島ごとに区別したいってこと?」
アニースの肩に乗る透虹石の鷦チェーリッシが、風の力で、ぴちちちち、と音を立てながら、スティンの頭に両手を載せて、その後ろに、ぷかぷかと浮かぶ彩石猨で言葉を発した。
「名前以外ー、なのー?」
セラムの肩に乗る、こちらも鷦のメリダが、足下に立つ彩石狼から言葉を発する。
ミナは、小さくて丸っこい鳥たちに、目を向けた。
「うん、そうなの。形とか、うーん、何か、特徴のある建物、は、ないから、例えば、大きな木とかね、個々に違いがあって、しかもそれが、見た目で、はっきりしたものだと、かなり助かるかな。ほら、透虹石のみんなの彩石動物とか、形が違うし、色も、足環と同じになってて、チェーリッシは猨で桃色、メリダは狼で紫色って、それぞれ違うから、分かりやすい」
「そんなことなのねー」
「簡単、簡単」
メリダとチェーリッシが、そう言って、ぴちちちち、と鳴き音を立てる。
「私たちー、15いるのねー」
「鳥が5羽!獣が5頭!」
「水のがー、5頭ねー」
「あっ、えっ!でも…」
「ボールトーガはー、透虹石じゃないのねー」
「あれは水竜なのよね!」
「水竜はー、水だけなのねー」
ミナは、急いで言った。
「でっ、でも、っ、ラーマヤーガは、単独行動、大丈夫?」
「キリュウがいるじゃないー」
「ふたりでひとつ!」
「独りじゃないのねー」
「やるときはやるわ!」
「サキもエオもー、いるものー」
「こっ、ども、たち…」
デュッカが言った。
「何かをさせるかは置いておけ。今回は調査だし、彼らの話では、時間はまだある。透虹石の者たちで新たな術を作るのなら、あるいは、水の者たちだけの方が都合がいいかもしれんだろう」
「私たちはー、いつでも力になるのねー」
「そうね!なんでも言って!」
「あっ、ありがとう…っ」
答えて、それから、じんわり、染みゆくもの。
胸の中央を押さえて、込み上げる嬉しさに、ミナは、ぎゅっと、目を閉じた。
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