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―2日目を終えてⅠ 風の宮の面々―
「娘!うちの娘ね!私はアマリア・ルゥト・イエヤ!おばあさまと呼んで欲しいわ!」
にこにこ笑顔の女性を、けれどもミナは、とても祖母とは思えない。
どうかすると、義母のマトレイよりも若く見えるんだけれども、これは何か、やはり風の異能を肌の調整に使っているからだろうか、彼女の夫が。
「アマリア、彼女が困っているよ。悪いね、私はディートリ・イエヤ、デュッカの祖父だよ」
こちらも、なんとか、本人の息子オズネルより目上には見えるけれど、当のオズネルが、ぎりぎりデュッカの目上と見えるところなので、なんとも判別に苦しまされる祖父だ。
「あ、はい。ミナ・イエヤ・ハイデルです。今後ともよろしくお願いします」
「ああん、戸惑ってる、お顔がかわいいわ!」
「ちょっと譲ってちょうだい、アマリア。私はヒュテリナ・ハマト・イエヤ、あなたから見て、曽祖母ね。マトレイから、ちらっと聞いたことがあるわ。これからしばらく、よろしくね」
「………ナイリヤ・イエヤ。お前たちの曽祖父だ」
並んでくれると、どちらが目上かは判別できるが、どうも、祖父母?曽祖父母?と、いちいち疑問符が付いてしまう。
混乱が収まらないので、諦めて放置したミナは、急いで名乗った。
「ミナ・イエヤ・ハイデルです。よろしくお願いします。あっ!あの、イエヤ邸なんですけど!今、たくさん、人も鳥獣もいて、賑やかなんですけど、どうか気兼ねなくお立ち寄りください。皆、使用人も含めて、喜ぶと思いますから…!」
「そうか。では、遠慮なく」
イーリヤの言葉に、デュッカは高祖父を睨むが、ミナは、別の問題に気付いた。
「はっ!そうだ、客間になっちゃいますけど、了承していただけると助かります…」
どの道、彼らが主として過ごした部屋は、自分たちが使っているのだが、マトレイとオズネルの時には気付かなかったと、青くなる。
「問題ないわ!それより、たくさんって、どういうこと?」
アマリアに聞かれて、ミナは説明する前に、腰を落ち着けるべきと、考える。
「ふむ、それは興味ある。どこか、座るところが必要だな」
ディートリがそのように声を上げてくれたので、夕食のために食堂に来た彼らは、手近で、空いている席を見付けると、ひとつの机を囲んだ。
周囲にも多い人々と、挨拶などしなければならないが、今は取り敢えず、家族の挨拶が先だろうと、ミナは、焦る気持ちを整えた。
給仕に注文を済ませると、簡単に、現在のイエヤ家の構成を話し、固定客と言える滞在者や、客とは思い切れない預かり子のことなど、話しておく。
それから、手早く食事を済ませると、談話室に移動して、ジュールズとレイネムも呼び、家族として紹介した。
「あと、あちらの赤い髪の男の子は、キリュウと言います。ジュールズの預かり子で、イエヤ邸に滞在中の子です。猨のラーマヤーガが、今は付いててくれています、あの子」
それから、キリュウを気に掛けて滞在中のヘインとセイエンのことも話し、イエヤ邸に居る子供に付いている鳥獣のことも、簡単に話しておく。
「あの辺りでお喋りしている鷦たちと、その仲間も、多くが使用人に付いていました。子供に付いている子とかもいるので、今だけかもしれません。あと、そんなで、鳥獣も住んでいるので、ほかの透虹石のみんなも遊びに来てくれて、子供たちの友だちも来てくれるから、それで多くなってます。滞在用の個々の部屋を用意しますけど、寝る時は大部屋でまとまることも多かったりです。あ、中の離れは、まだ使っていないんです。使えるように整っているので、静かな方が良ければ、そちらでも滞在できます」
「まあ!たまには、賑やかなのもいいわ!それじゃあ、戻ったらちょっと、滞在させてもらうわね!」
ヒュテリナが両手を合わせて言えば、ナイリヤは、じろりと、そちらを睨むようだ。
「まあ、まあ!女の子たち!会いたいわ!私たちも、行きましょうよ、ディートリ!」
「そうだな。ミナ、デュッカ。帰国するときに同行させてくれ」
「ええ!はい!あ、私、この船で一日掛けて帰ることになります…」
「うん。帰りの時間を合わせる。我々は、ネイたちに協力するので、そう長期は滞在しないが、何度かレグノリアに戻るかもしれないから、部屋が空いていると助かるな」
「分かりました!では、なるべく本屋を空けるようにして、中の離れを、いつでも対応できるようにします。本屋では、たぶん、位置は、奥になっちゃうんですけど…」
「いや、そこまで我が儘は言うまい。それに、大部屋で寝るのも悪くない」
「はい!子供たちも、透虹石のみんなも、いろんな人を知って、得ることがたくさんあると思うので。もちろん、皆さんも。できるなら、会ってあげてください」
ちょっとだけ、拒まれることを心配するように、先達の顔を見る。
ナイリヤだけは、まだちょっと、面白くないような顔をしていたけれど、諦めの表情は、あれは知っている。
よく、知っている、表情だ。
くすりと、ちょっとだけ笑ってしまい、夫を見上げると、こちらもなんだか、不満そう。
「ふふっ!あっ、えっと!それでですね、私はここで仕事があるんで、申し訳ないです、あまり時間を取れません。今は、円の日の調査に向けて、体調を整えているような状態で、部屋で1人のことが多いかもしれません。仕事のことはジュールズに、家のことはデュッカに預けてもらえると助かります。今回だけだと思いますから、ほかの島では、対処できるように整えていきますね!」
不安を抱えながら、そう言うと、デュッカが、ぽふりと、ミナの頭に手を置いた。
「無理をする必要はない。家族なんだから」
言われたためか、吐いた息が短く震えた。
載せられた手が重くて、顔を上げられない。
すっと、風の流れがあって、伏せた視線の前にアマリアを見た。
「ええ、家族。大人の家族よ。私、落ち着きが足りないけれど、これでも、オズネルの母なんだから」
次いで、ヒュテリナの声がした。
「ふふっ。そうね。普段は、まあ、あんなだけど、案外、頼り甲斐があるわ」
「まあ!それ、良い意味かしら!」
「ふふふ、当然よ」
そんな、声に促されて、顔を上げる。
見回す顔は、どれも、やさしくて。
ミナはまた、顔を伏せてしまった。
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