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―2日目を終えてⅡ 土の宮の面々―
「はっはあ!今日はよく遊んだぜえ!いや働かされたぜ!これ、貸しな!ジュールズに付けとくわ」
上機嫌で酒盛りに参加する前代土の宮公ゼンダノール、通称ゼダンの発言に、どうにかしろあれ、カィン呼ぶか、おう、そうだと、ぶつぶつ呟くジュールズだ。
ファルセットは、はははと乾いた笑いを発しながら、星空の下、この人工浮島セスティオ・グォードで陽気に騒ぐ者たちを見回す。
夕食後、しばらくはバルタ クィナールの談話室で挨拶回りをしていたのだが、酒宴をしようぜとゼダンに引っ張られて、ここにいる。
グォードというのは、古い言葉で大地を意味するそうだ。
大きさの定めはなく、人が踏み締めて両手を広げ、広大さを認める揺るぎない地面という意味だ。
最初の浮島を踏んだ原初の人が、人の身には充分に広大だと語ったことから、大陸は省いて、島の中でも広めのものを指す言葉となり、初期の浮島のいくつかには、その名が名称のあとに付けられているそうだ。
ちなみに、カサルシエラ造成の頃には、その言葉は、あまり使われていなかった。
「カサルシエラの頃は、言葉を整えていたから、音の響きにばかり意味を持たせるのではなく、真名を作ることで、もっと多くのことを説明できるようにしたのさ」
水狼デュッセルデルトがそう語って、ぱたりぱたりと尻尾を揺らした。
そんな静かな思い出語りが、ファルセットには心地よかった。
デュッカが手掛けた寝所もあったけれど、ここで杯を傾ける者たちは、ジュールズが地面の上に敷いてくれた空気の層の上で、楽な姿勢から、やがて眠りに入っていく。
次第に静かになっていく中、ゼダンがジュールズに礼を言った。
「おう、ありがとうな!快適だ!」
夜気を和らげ、それぞれに合う温度を下に、ゼダンの祖父ミオトが作ってくれた掛け布で充分に熟睡できる。
ゼダンの祖母ジュディシエ・グランディール・パステ・セスティオは、ミオトの片膝を枕に、静かに眠っている。
「おうよ。しっかし、風の宮はなんなの、あれ、風のもんは年取らんの!」
ゼダンもミオトもジュディシエも、アルシュファイド国民としては通常の外見年齢に近いと思うが、風の宮は、歴代宮公だけでなく、連れ合いまでもが若々しくて理解が追い付かない。
ミオトが、ふっと笑みを浮かべながら言う。
「あれらは気ままに生きているからよ。あとまあ、大気から守られているということが、大きいのかもな。土と水は、体そのものに働き掛けることはできるが、どちらかと言うと体内の巡りを補助するもので、現状保護というのは、結界など張ればできるのだろうが、あまりに作業が繊細過ぎるのでな、やっておられん」
「ふうーん。そうすっと、俺様、肌の保護の術、頑張っちゃおうかしら!」
「よせよせ、外側だけ保っても、イーリヤのように置いて行かれては、寂しいからな」
静かな声は、たぶん、ここに居ない、孫息子ゼダンの連れ合いを思っているのだろう。
「そういや、ミオトはゼダンの祖父さんなんだっけ。間はどうしたのよ。ゼダンの両親」
「うむ。譲ってもらった」
にこにこ笑顔に、なんだか含みが見える。
ゼダンが言った。
「あー、土は誰か残れってさ、言われて、カィンとロアが居るからいいと思ったんだが、そっちはそっちで忙しいとかで、ほんで祖父さん、上空のは、ざっと見たから、行く機会がなくなるかもしれない、こっちに行きたいつって、親父を黙らせたんだ」
「ふ、ふーん…」
好々爺然としているが、ミオトも、なかなかの曲者らしいと、ジュールズは覚えた。
「ま、でも、2人いてくれたら、こっちも助かるよ!よろしく頼むな!」
「ああ、こちらこそよろしくな」
「貸し増やしてくぜ!」
「ぐふっ」
そんな会話を交わして、静かな夜に、やがて皆が、溶け込んでゆく。
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