調査3日目、巡り合わせ

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       ―朝Ⅲ 挨拶―    船での朝食を終えると、一旦、顔触れを確かめるということで、主要な役割を持つ者などが、人工浮島(ふとう)セスティオ・グォードに集まった。 バルト クィナールが横腹を見せる西沿岸部には、湖の奥に水を内部に包む色の無い大木があり、その幹や枝には、水を泳ぐ生物が行き交い、枝の上や、葉の集まりに見える水の塊に、様々な生物が(とど)まって、進行を見物するようだ。 この、湖と、水の大木は、この場で具合が良ければ、今後、セスティオ・グォードの要所に設置する。 体が小さめの水の者たちは、この大木と湖の中や湖岸に()り、体の大きな水の者は、バルタ クィナールの手前の海から湖を覗き込み、鳥や陸上を生活域とする獣たちは、湖の北側と南側に、調査団やアルシュファイド王国から遅参した者の多くは、バルタ クィナールの暴露甲板や、その外に設置された細長い浮遊艇から、様子を見守っている。 調査団の中心と、遅参した中でも主要な人物と獣たちは、湖の上に浮かぶ浮遊艇に乗り、外向きに配置された椅子に座るなどで、周囲を見やすくされていた。 ファルセットは、その浮遊艇の中央で、立ったまま書類確認できる机を前に、拡声器に向けて声を発した。 ジュールズが、その力を張っている範囲内で声を発するなら、本人の意思に従って周囲や特定の人物に声を届けるのだが、この拡声器は特に、丁寧に雑音を排してくれるので、聞き取りやすくなっているはずだ。 「はい!皆さん、おはようございます!それでは早速始めさせてもらいますね!俺は緑嵐騎士ジュールズ・デボアの従者の1人で、ファルセット・ミノトと言います!アルシュファイド王国としての代表者はこちらのジュールズです。従者は現在、俺を含めて5人。要所に散らばりますから、ジュールズへの繋ぎとして、ご用を伺います!まず、俺は概ね、ジュールズに同行します。そちらのレッドは、バルタ クィナールを拠点として活動します。こちらのニーニとキサは、調査団に同行です。それから、こちらのカルメルは、アルシュファイド王国の船や設置物を中心に、単独で問題のある所に即時対応します。とは言え、本当に1人になると困るので、騎士の(くみ)に同行することが多いと思いますので、対応頼みます。それでは、まずは調査団の主要な顔触れを紹介します!」 その言葉を受けて、ジュールズが大きく片腕を挙げた。 「おっ!まずは俺な!彩石騎士の(いち)、緑嵐騎士ジュールズ・デボアだ!よろしくな!」 その場で、くるっと横方向に一回転しながら、ジュールズは周囲の様子を確認した。 少し顔を動かせば、既に面識のある者が見受けられる。 そのことが、なんだか、くすぐったく、嬉しい。 次に、ミナが椅子から立ち上がり、深く一礼した。 「彩石判定師ミナ・イエヤ・ハイデルです。調査そのもので主動するのは、私です。私のほか、彩石選別師、こちらのユクト・レノンツェと、今は船に()る数名が、今後の対応を引き継ぐなど、考えています。彩石選別師は、彩石の選別をする者たちです。皆さんよりも、いくらか、見分けの能力に技術を付加した者たちと思ってください」 そう言うと、ミナは、デュッカに声を掛けて、2人、浮遊(かご)に乗って、ジュールズの作った浮遊艇の下方に移動し、ゆっくりと外周を回り始めた。 ファルセットは、意図を理解して、先に続けることにした。 「ミナは彩石に掛かる力の調査、術の調査を行いますが、こちらの水の宮公は、水のある所に不都合がないかなど、探ってもらいます。カリ」 呼び掛けると、カリは頷いて立ち上がった。 「はい。皆さん、わたくしが当代の水の宮を負う者です。カリ・エネ・ユヅリと申します。人としては力量が大きいため、この役目に就いています。カサルシエラの今後の様態(ようたい)が確定しましたら、こちら、私の祖父など、先に水の宮公を務めた者たちが対応することになりますので、よろしくお付き合いくださいませ」 「ヴァド・ジーリス・ユヅリだ。妻ともに、よろしく頼む」 ヴァドが立ち上がって、遅れて立ち、一礼したバレリアとともに、浮遊艇から出て水に乗った。 そのまま、湖上をゆっくりと移動して、存在を多くに認めてもらうようだ。 カリも、少し思案してから、浮遊艇から降りた。 話し合いには、この場に()さえすれば、参加できる。 ミナとデュッカの(ほう)は、浮遊艇の外周を回ると、元の椅子に戻った。 「調査団の主要人物としては、ジュールズと、ミナと、カリです。そのほかの顔触れは、彼らの手伝いです。ジュールズには従者5人、肩に乗る透虹石のレイネムは、彼の相棒です。それと、透虹石のトーベリウムにも、要所で手伝ってもらいます。ミナには、連れ合いの風の宮公が同行します。それと、彼女自身の移動の不都合解消や、行動の補助のため、ハイデル騎士団と言う護衛騎士団が同行します。団長はこちら、ムトです」 「ムティッツィアノ・モートン、ムトと呼んでくれ。調査団の監督をしているので、手伝いの必要がある場合など、俺の方に声を掛けてもらえると助かる。不都合は全部ジュールズに言ってくれればいい」 「団長よお…」 恨みがましいジュールズの呟きが聞こえたけれど、今は構っていられない。 「ムトには多く透虹石のガフォーリルが同行しているはずです。それと、透虹石の(さざき)たちが4羽、騎士団の補佐をしてくれています。あとは、シュティンベルクも手伝ってくれるということで、今のところは、ミナの周囲を中心で、自由行動しています。それから、当面、船から降りる予定はありませんが、ミナとハイデル騎士団の支援に来てくれているのが、先ほどミナが言った彩石選別師たちと、その手伝いをする騎士たちです。今、バルタ クィナールの横の浮遊艇に2列になっている人たちが、調査団の顔触れです。人の怪我などを治す医師も同行しています。そういう問題が生じた時は、すぐに教えてもらえると助かります」 ファルセットは、息を継いで続ける。 「水の宮公の補助には、護衛騎士隊と、先に到着していた透虹石の者たちが付いてくれます。フェビィゲイリィ、ライドオウラ、ヒュテルム、セリネーイ、カリネラ」 浮遊艇の上に()る水の獣たちが挨拶らしく体の一部を軽く振る。 「それと、水の宮公の相談役ともなります、外交騎士ヘイン。相棒のセイエンが同行します」 「ヘイン・ヒュリステフだ。よろしく頼む」 「久し振りと初めまして!セイエンだよ!」 元の姿のまま、セイエンは伏せていた浮遊艇から飛び出して、湖面に着地した。 足元には、すぐに、発声する浮遊板が潜り込み、ヘインも浮遊艇から飛び降りて、セイエンの浮遊板に移動した。 カリは、それを見ると、すっとそちらの横に移動して、少し考えると、水の椅子を作って腰掛けた。 浮遊艇に()た遠境警衛隊の2人、女騎士フエルシスと男騎士ガイデンも飛び降りて加わる。 バルタ クィナールの暴露甲板に()た遠境警衛隊の3人は、目を見交わすと、今回の調査団限定として渡された透虹石の仕掛けを使って、(はや)過ぎず(おそ)過ぎずの速度を保って、同じ場所へと移動した。 あまりの高速移動は、不安や不快、不審を招くことが考えられたからだ。 その頃には、水の獣たち5頭も、そちらに移動していた。 「あ、そちらが水の宮公の一団です。調査団としては、このような顔触れですね。この調査団に同行していたのが、こちら、先の政王陛下ネイラシェント・クィン・レグナ様、夫のジェド、そしてそちらの、()(げき)騎士ヘリオットの3人と、あとから来た人たちは、原初生物対応機関改め特殊対応機関、これも仮名(かめい)の活動団体です。彼らは、カサルシエラという島ではなく、そこに住む動植物に対して応接し、今後の対人手法の提案や整え、カサルシエラという生活環境の維持などに務めます。ネイ、簡単に紹介が必要かと思います」 「おう、そうな!んじゃ、ちょっと出るぞ!」 言うと、ネイは浮遊艇から飛び出して、ジュールズのものよりも濃い緑色の浮遊板を作ると、調査団の少し下方、斜め前に配置した。 「私がネイラシェント、ネイと呼んでくれな!そんで」 「ジェド・クィン・エメワリゼ。ネイの連れ合いだ」 言葉を遮られて、ネイは、ちょっとだけ夫を睨んだけれど、すぐに続けた。 「こっち、今来たのがヘリオットな。さっき自己紹介したの、お、今来たのが、ヴァド。バレリアも手を貸してくれる?」 「ええ、もちろん!」 「て、ことだ。あと、残り、こっち来てくれるか」 そう言うと、瞬く間に浮遊板を広げて、そこに、特殊対応機関の面々が集まった。 「まず、土はそっち!自己紹介してって!」 「おー!俺はゼンダノール!ゼダンて呼べ!正式名はその都度な!」 「同じく土の、ミオトだ。これの祖父だな。こちらは連れ合いのジュディシエ」 ジュディシエの一礼の横で、ナイリヤが名乗る。 「風の宮、ナイリヤだ」 「妻のヒュテリナよ!力はそれほどじゃないけど、手伝うわね!」 「あちらの風の宮、当代デュッカの祖父のディートリだ。こちらは妻のアマリア、先に名乗ったナイリヤとヒュテリナは私たちの両親、ミナの後ろに()るのが、私の祖父のイーリヤだ。手伝ってくれるのですよね?」 イーリヤは、ちょっと意地悪みたいな笑みを見せて、そうだなと答えた。 「風の宮はこんなところ。水の宮は、先ほどのヴァドとバレリア、火の者は、そちら、どうぞ」 「おう!俺は火の宮は負えなかったんだけどな!そこそこ力量があるんで、妹と来たぜ!カヌン・シリジィ、呼び名はジスだ!」 「双子の妹のギィよ。カヌン・カグリーディズィト。2人で力を合わせるなら、いくらか大きなこともできそうよ。まあ、どんな役に立てるのか、ちょっと思い付かないけどね」 ネイが後を継ぐ。 「おう!それは、これから考えていこうぜ!4属性で、でかいことをする必要があったら、力を借りようと思って来てもらった!土は、人が使う設備を中心に、土台作り、水は、ここは水竜の島だって聞いたから、水の者に合わせた環境作りな。風は、移動と伝達、土と水と火の繋ぎで必要なとこ、火は、土と風と水ではできないこと、頼むぜ。気温の変化や、土の物体変化の過程に熱を加えられるだろ。水も温水が必要なとこ、あるかもしれんし、一度の力量より、回数で頼ることが多いかもしれん。一番きついかも。2人で手分けしてくれな」 「おー?なんか、大変そうだな…」 「ははっ!逃がさないよ!で、そっちは、元彩石騎士だから、異能はそれなりに大きいけど、一番働いてもらうのは、互いの不都合の低減な!あちこち散らばってくれ!」 応えて、腕を挙げたのは、1人の立派な体格の男だ。 「おー、ネイよ。統括は俺になるか」 「ん?まあ、適任なんじゃない。ジュールズは知らないよな、大先輩だぜえ」 「以前に白剱騎士を務めた。現在の(ふた)()皙煉(せきれん)騎士だ。ディーク・リヨルゼ」 「ディークの補佐をさせてもらう!赤瀑(せきばく)騎士ラルーシ・ベリゼ!」 「お。よろしくな」 にかっと、見せるディークの笑顔を見て、ラルーシは身を震わせ、口元を覆って横を向く。 なんだろうかと首を傾げてしまうが、これも、構っている余裕はない。 ファルセットは片手を挙げた。 「ここで、ちょっと、同伴している子供たちについて話しておきますね!1人は、ジュールズの預かり子で、キリュウという火の力が強めの男の子です。外見は10歳越えてますが、心は生まれたばかりのような状態で、色々と理解するには、心を保つ力や、知識などが足りていません。そのため、体への接触は()けますが、対話することは本人の学び…育ちに大事なことだと思うので、声は通すようにしています。あちらで遊んでいるうち、赤髪の子です。ほかの2人は、ある程度の理解力はありますが、ひどく傷付けられた子たちなので、反応に過敏な部分があると思われます。彼ら3人で、今は支え合うことが力になるのではないかと、行動を共にさせているんです。子供同士の会話は勧めたいところですが、キリュウの火の力が強いことで、危険があるかもしれません。もし、心配が大きいのであれば、子供同士では接触し合わないようにしますから、対処の仕方を話し合いましょう。彼ら3人には、見守りの騎士が2人付いています。それと、透虹石のラーマヤーガが付いてくれています」 セイエンが言った。 「聞いて!会話ができる幼子(おさなご)って思うと、ちょうどいいと思うんだ!でも、まだ見た目で判断するような子には、対応できないと思うの!気を付けることはあるけど、仲間外れにはしないで欲しい。お願い」 ちょっと耳が下がって、大きな体が縮まる。 「大丈夫だ、セイエン。子供たちのことは、ちゃんと見ているだろう、お前たち」 見ると、水竜ガーシュウトが、バルタ クィナールの手摺(てす)りから、声を掛けたのだった。 熊人(ゆうじん)アリウステイトが、そうだなと頷いた。 「ロム。あの子らには、話す時は特にやさしくしてやれ。急がず、ゆっくりとな、してやればいい」 話し掛けられた息子のロメイアは、ちょっと考えて、頷いた。 「分かった…」 本当は、理解はしていなかったけれど、急がず、ゆっくりと接しなければならない相手なのだ、ということは、覚えた。 「よろしくお願いします!では、あともう少し、紹介しますね!ガーシュウトの隣に()るのが、調査団の活動拠点である船の、バルタ クィナールの船長のライネスです!」 ファルセットの声に応じて、ライネスが帽子を取った。 「ライネスオリオ・ボゥワーク、ライネスと呼んで欲しい。ほかの船長には、こちらから配置など、指示する。現在、補給をしてくれている小さめの船は、作業が終わり次第、この海域を離れる。やや北側にある大きな船は、特殊対応機関の者たちの宿泊のために来てもらった、ヴィサイアという名の船だ。見えるか判らんが、船長が船首近くに()る」 その言葉に応えるように、大きく片手を挙げた者があり、声が聞こえた。 「客船ヴィサイアの船長、メドニイ・ミイトです。カサルシエラの皆さんをアルシュファイドまで送る船は明日(あす)にも到着しますが、バルタ クィナール同様、できる限り()()したいと思います。もちろん、お泊まりの皆さんにも、過ごしやすいよう努めさせていただきます」 聞こえた声は、女のものらしく、ファルセットは少し驚いたが、続けた。 「あとから来た透虹石の皆は、自己紹介が必要かな?」 応える女のような声があった。 「5頭しか来ていない。アルシュファイド上空に風鳥(ふうちょう)の島が来たこともあって、皆、そちらに覗きに行ったり、何より、人の生活にどう入ろうかと、考えているようだ。こちらはこちらで、問題を解決してから、改めて旧交を温めるとしよう。私は竜のマーシェラ。共に来たのは、馬のハルオンロウ、(いのしし)のパッテスクリット、(うさぎ)のミカエラ、鹿(かせぎ)のバンクィット」 レイネムと同じ大きさのマーシェラと、ほかの4頭が、(まぎ)れ込んでいた浮遊艇の中から進み出て、今は前方となっている箇所の端から顔を出した。 パッテスクリットとミカエラは、トーベリウムや、過日に見たほかの透虹石の(うさぎ)と同じ大きさだが、ハルオンロウとバンクィットは、小型化していることもあって、見えるのは顔だけだ。 マーシェラが続けた。 「途中に、ほかの空浮島(そらうきしま)もあるようだった。ここでの対処が決まれば、ほかの島もこれに(なら)えるだろう。挨拶はこのくらいでいいのか。このあとはどうする」 「あ、待って、待って!カサルシエラ側の顔触れも確認したいんだ。あとから来た人たちとか、知らないから。まず、ボールトーガの移し身たち!白狼が3頭、彼らは、このカサルシエラの管理者という立場です」 ジュールズの浮遊艇に()た3頭が、飛び出して正面の少し下に水の足場を作って、降り立った。 「ゼニーリスカイ、ゼンと呼べ。多くはジュールズに同行しよう」 「キリシテアルルーガ、ミナに同行!キリと呼んでくれ!」 「私はカリに同行する。ヴェルサリーナと呼んで欲しい」 ファルセットは()を置かず声を上げた。 「それと、船の方ですけど!バルタ クィナールに乗船してもらっているのが、さっきの水竜でガーシュウトです!」 「よろしくな。ライネスに同行している。誰か、そっちの船にも案内を乗せろ」 「ん。俺が行ってやろうか」 風の会合場の外にある休憩場に()た狼が立ち上がった。 「デュッセルデルト!?私をひとりにするな!」 隣に()た、人にとても似た姿だが、目は柔らかな透ける色玉(いろだま)だったり、鼻や耳が形だけ真似(まね)た突起物だったりする枝人形(えだにんぎょう)が、慌てたように水狼(すいろう)デュッセルデルトの体にすがりついた。 ふたの島の(とち)樂果(ラッカ)だ。 「うるさいな。お前も来ればいいだろう」 「う。だって、あっちには、誰もいない、知ってるの…」 客船ヴィサイアは、補給船とともに、まだ、今朝早くに到着したばかりなので、水竜たちも遠巻きにしているのだ。 「じゃあ、ここにいろ」 「やだっ!やだっ!やだっ!」 そこに、とても近いところにキリュウが滑り込んで、声を掛けた。 「ラッカ。だいじょうぶ?」 隔たりの向こうから届けられた言葉に、樂果(ラッカ)は、相手の名を呟きながら振り返る。 「キ、キリュウ…」 「だいじょうぶ、ない?ぼく、できる、ない?ある?」 「あっ…」 「子供に心配させるな。ガーシュウト、そっちの船には俺が行こう」 そう言って、デュッセルデルトは身軽に客船ヴィサイアへと乗り込むと、船長メドニイと挨拶を交わした。 樂果(ラッカ)は、置いて行かれたことや、キリュウに答えなければという気持ちで焦り、あわあわと慌てるばかりで、行動を決められない。 「やれやれ、樂果(ラッカ)は相変わらずか」 そんな声があって、発された場所を特定する()もなく、緑色の多い羽毛の、大きめの鳥が樂果(ラッカ)の頭に足を下ろした。 「うわああああ!!」 重みで頭を前に大きく下げながら、樂果(ラッカ)が叫ぶ。 ちょっと横幅が太めの鳥は、樂果(ラッカ)の頭から身軽に飛び降りて休憩場の床面に足を付けると、キリュウに近付いた。 その背中から、ひょいと顔を出したのは、ミナたちの息子レジーネと同じくらいの年齢に思われる、人の幼子(おさなご)。 「キリュウと言うそうだな。始めまして、私は(つるばみ)。よろしくな」 「え、ええ、と…」 理解できそうな言葉だったが、キリュウには、処理するには、項目が多かった。 どこを取り上げればよいのか、あるいは、取り上げる順序が、判らなかった。 そのとき、与えられた透虹石の仕掛けを使って、ミナの侍女ラグラが近くに移動してきた。 「キリュウ、こちら、ツルバミというお名前なのです。分かりますか?」 「あっ!うっ、うん!ツルバミ…、っ!よっ!よろしく!」 言葉を切って、すぐに足りない言葉に気付き、()くように続ける。 「ぼくキリュウ!よろしくね!」 「ああ、よろしくな。この樂果(ラッカ)は、大丈夫だ。私が付いている。いいかな?」 「あっ、えーと、えーと、」 今度はエオが、もう一度言った。 「キリュウ、ラッカは、もう、大丈夫なんだって。大丈夫、なんだ」 「あっ、うっ、うん!」 「よし。さて、皆、話は、大体、聞いたと思う」 鳥の背から降りた幼子(おさなご)は、見る()に縦長になり、つまり身長を伸ばして、すっかり長身の、細めだが、人の、若い男の姿に変わった。 「初見の者は、初めまして。私は(つるばみ)。始まりの木だ」
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