調査3日目、巡り合わせ

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       ―朝Ⅳ 段取り整理―    アルシュファイド王国のレグノリア区中心地にある1本の原初の木。 多くの者は、その(しゅ)の名を知らないが、それを求めた人々は、(つるばみ)、と確認している。 つい先日に発覚した事実を、目の前に突き付けられた人々は、一様(いちよう)に溜め息を()いた。 レグノリア区で原初の木として親しまれていた1本の木は、その枝を人の姿に変えて、自在に歩き回っている、ということ。 「久しいな!皆。透虹石のが起き出したと思ったら、二柱(ふたはしら)の術の効果切れだったらしいな。ここに来るまでに見掛けた島には、枝を置いてきたが、さすがに処置は順にするより、ないらしいからな。(さざき)たちから、四色の者の所在を聞いて、こちらに来てみた」 そう言うと、細身だが、均衡のとれた体付きの人の姿をした者は、樂果(ラッカ)の手を取り、空中に身を躍らせた。 ゆっくりと下降する体は、ジュールズの作った浮遊艇に近付いて、その足を付け、ミナの前に立った。 「会えて嬉しいよ、四色の者よ。改めて、私は(つるばみ)。木の(かたち)真名(まな)を持つ。君の名を聞こう」 ミナは、すっと椅子から立ち上がって答えた。 「ミナ・イエヤ・ハイデルです。はじめまして」 「ふむ。さあ、座って、少し休むといい」 両手を取られて、座るよう促されながら、ミナは、自分の異能を整えられているのを感じた。 透虹石の者たちがしてくれることとは違い、余分な力を抜いたり、荒れを(なだ)めたりするのではなく、揺らがぬよう、ぴしりと整えられる感覚。 ()(かげ)で、だいぶ楽になった。 「さて、こちらに来るまで、興味深い話のようだったので、顔触れの名だけは、聞いていたよ。そこで、緑嵐騎士よ。既に協力を仰いでいるのだが、この近辺に隠れた浮島(うきしま)を呼ぶことにした。アルシュファイドの南に集まろうとしていたから、近い内に到着する。そのあと、この辺りに、まとめて秘匿の術を掛けるとしよう。個別の術の整えは、それからにすればよい」 「は。あ、それって、レグノリアの上空の」 「ああ、それもさ。私がミナの補佐をして、ミナが四の宮を補助すればいい。ミナには、ほかの生き物よりも、人である方がいいから、火の宮が来られるようになったら、合わせればいいさ。術の効果切れで問題がありそうなのは、ここと、海竜(かいりゅう)海鳥(かいちょう)(かい)()海蹄(かいてい)(かい)()の海中浮島(うきしま)だろう。あれらは、突起だけ出して海中に漂うのが常態だが、生物のために、ここと同じように浮き沈みを術で循環させているんだ」 「あわっ!ちょっと待ってくださいっ!書き留めます!」 慌ててファルセットが叫び、周囲が、ようやく、自分を取り戻したようで、わやわやと声が上がる。 ゼンが言った。 「(つるばみ)よ。積もる話もあるが、我慢しよう。その個別の術の再構築は、人に頼らねばならないか」 「うん?ゼンよ。人の手を借りぬでもいいが、それは後回しにするがいい。ほかは良くても、カサルシエラのように術で島を動かしているものは、術の再構築のためには、環境を変えない方がいい」 「そうか」 「ミナには負担が大きいが、二柱(ふたはしら)を起こすほどとは、私には思えんのでな。悪いが、手伝ってくれ」 「あっ、うん!」 顔を向けられ、ミナは急いで頷いた。 「それで、お前たち。全体の秘匿の術は、どうせ集まるのだから、お前たちがするがいいさ。中央に山鳴(やまならし)たちを置くがいい。コットンロットンモート・グォードをな」 そう言うと、(つるばみ)はネイの作った浮遊板に飛び移った。 樂果(ラッカ)の手を引いて、その動きは、どうも風に乗っているようだった。 「土の宮。どちらか力を貸せ。土塊(つちくれ)()した方が判り易かろう」 「お。いいぞ」 「ありがとう、手を」 協力を了承したゼダンの手を取ると、(つるばみ)は、物体を少しずつ出現させるように言い、その物体に手を加えて、前方に土の塊をいくつも浮かべた。 「緑嵐の、お前の風を借りているから、この場に満たし続けろ。皆、これを見てくれ。中央をコットンロットンモート・グォードとする。土竜人(どりゅうびと)が守護しているはずだが、まあ、朝嵐(アサアラシ)()るなら、問題ない。失われているのなら、ここは私が受け持つ。カサルシエラは動かさぬ方が良いから、水のを、この南西に延ばして配置する。土竜(どりゅう)のクランディンフェルノをカサルシエラの北、ほかの土のは、そこから北西だ。風竜(ふうりゅう)のは海面近くに降ろす。北東に配置して、やはり風のはその北東に延ばす。火は、残る南東だ。カサルシエラの全島浮上時に、すべての島を海面近くに浮かべ、海底から天の(ふち)まで、秘匿結界を展開する」 どうやら、土の塊のひとつひとつが、浮島(うきしま)らしく、どんどん数が増えていく。 熊人(ゆうじん)アリウステイトが声を上げた。 「朝嵐(アサアラシ)に枝を折らせるのか!」 「それをしてもいいかもしれんが、人々や透虹石のに手を借りよう。細かい手順は後回し、4(よんしょく)の竜たちは、まだ存命か」 ゼンが答えた。 「青のは寝ているようだった。ほかは知らぬ」 「では起こしてきてくれ。四竜(しりゅう)の島と四鳥(しちょう)の島で力を発する。だから四鳥(しちょう)を最も遠くに配置しよう。竜たちは海面から下を、鳥たちは海面から上を受け持ち、土の守護、風の媒介、水の幻影、火の解離を朝嵐(アサアラシ)にまとめさせる。ミナよ、そういう処置を行うので、使用彩石の指定を頼む。島の配置が終わるまでは、体調の整えと、カサルシエラの調査に務めてくれ」 「あっ!はい!分かりました!」 答えると、(つるばみ)が振り向いて、笑った。 「お前にしかできないことはあるが、我らにできることがないわけではない。手伝って欲しいことは言うから、世話焼きに苦心まで、することはないからな」 穏やかな、声。 「う、うん…」 ミナは、頷いて、深められたその微笑みに。 心の重みを、軽くしてもらえたと、思った。
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