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―活動Ⅰ 段取りまとめ―
朝の茶の時間に休んでしばらく、話し合いを詰めた一同は、一旦、外していた者たちにも声を掛けて、昼食前に集まった。
その頃には、ほかの島が近くに配置を決め始めたという話で、一部、カサルシエラ以外の島の者たちも顔を出しに来た。
あまり近くには寄せられないということで、最も近くにあるという海龜の島トータルイートン・グォードですら、霞がかかって薄ぼんやりとしていた。
驚くべきは、そうまで離れなければならない島々の海流への影響力か、薄くとも見えているからこそ実感できる島の壮大さか、その島を移動させるという想像付かない大業か。
いずれにせよ、ファルセットとしては、心の平穏のためには、驚嘆を別の場所に置いて、事実をそれとして承知する努力をするほかない。
昼のあと13時から、中央の3島浮上となることや、アルシュファイド王国側の備えが多く大きくなってきたことを受けて、現在は、一旦、すべての設備を、よつの島が浮上すれば北側の沿岸海となる位置に移動させており、このあと、バルタ クィナールだけ、島の浮沈や、話し合いなどによる調査団の動向によって単独で移動することにした。
とにかく、話し合いの場としては、今朝と同じように、ただし今回は、セスティオ・グォードの北沿岸部に、皆を集めることとしたのだ。
「はーい!皆さん、大体、集まりましたかね!ここまでに決まったことをお話しします!まず、カサルシエラ以外の島から来ている皆さんにも、アルシュファイド王国側の動きをご説明します!」
今回も進行役のファルセットは、アルシュファイド王国側を、調査団、特殊対応機関、船や島など施設の、みっつに分けて、対応が違うことを先に説明した。
大まかに、調査団は各島そのものに関する対応、特殊対応機関は各島に住む者たちへの対応、設置物は、利用者に応じた対処を行う、としておく。
その間に、レッドとキサとニーニが協力して、必要事項を記載した小型の掲示板を順序よく並べた。
これは、ファルセットとレッドが話し合って、ここまでに決定した、それぞれの意向と、確定している事柄と、予定している動きを、立場の違いごとに分けて掲示板を設置し、文字と音声で確認できる機能を作ってもらい、複製して持ち運べるようにも、してもらったものだ。
ファルセットは、その掲示板の複製の、ひとつを利用しやすい状態に変えて、内容を確認しながら話した。
まずは、調査団のことからだ。
「我々調査団は、当初の目的を、カサルシエラに掛けられた術の精査としており、これは、現在に於いても、優先順位の高い目的です。ただし、今回、この海域に滞在する期間を2週間と定めていまして、重大な不都合が生じない限り、この予定は変えません。当調査団の決定事項として、最も優先順位の高い事柄が、この、滞在予定期間ですので、そのほかの事柄には、目的も含め、調整のための変更を視野に入れています。そして、調整に関して、もうひとつ重要なことが、彩石判定師ミナの、この海域への再訪の時期ですが、これが、数ヵ月先のこととなってしまいますので、これも念頭に置いてください。では、まずは今後の活動予定ですが、この調査団の動きから説明します!」
調査団は、先に説明した通り、この海域での滞在期間は、約2週間で、再来週の暁の日の朝に、アルシュファイド王国に向けて出発する。
目的の調査で主動するミナの動きは、今日、明日、明後日で半休息の期間とし、バルタ クィナールからカサルシエラの各島を観察し、できるならば、上陸する。
明々後日、円の日の8時から、きたの島に向かい、全島浮上状態で術の精査、この日は、昼食は船に戻るが、それ以外では、カサルシエラに上陸する予定としておく。
その後、来週は、円の日に向けて、広域秘匿の大規模結界構築のため、主に結界石としての彩石設置に動くこととし、カサルシエラの護術更新のために、調査を主な活動と意識し、できることを探す、実行する、というものだ。
調査団のそのほかの顔触れは、ミナの活動の支援を主要な目的に据え、ジュールズは不都合の低減と解消、カリは、カサルシエラの環境調査を試みる。
特殊対応機関は、まずはカサルシエラ対応の設置物の確定と構築だ。
それを参考に、ほかの島への対応も、互いに見て、確認し、これに近い設置物の作成が行われるだろう。
既に作られた設備と、特殊対応機関が今後も作り出す設備については、利用者が具合を確かめながら、設定を決めていく。
この処置は、ジュールズとディークで随時確認しておく。
「次に心配するのは、設置物ですね!カサルシエラは複数の島から成りますから、多いですが、使用しない期間が長いものは、収納できるようにして、なるべく、これまでの皆さんの生活を妨げないようにします。大きな固定設置物は、こちらのセスティオ・グォードと同じような人工浮島になります。そしてこれは、ほかの島にも設置させてもらいます。我々の船は、その人工浮島に係留して、各島への立ち入りを制限する形を確立したいんです。この人工浮島の大きさや数は、島ごとに決めていきます。取り付けたい機能は、会合場と、宿泊施設と、船の係留施設です」
それから、現在、作られている、ほかの設備の説明だ。
「この2週間の会合場は、セスティオ・グォードのどこか、まあ、たぶん北のここだと思います。バルタ クィナールには、すっかり大きくなってしまいましたが、風で作った会合場があるので、それを牽引して利用します。風で作った宿泊所は、こちらに置いて行きます。消してもいいですし、参考にして、土で改めて作るといいかもしれません。バルタ クィナールの方では、風の会合場に手を加えて、宿泊区画を設けてもらいます。客船ヴィサイアと、あとから来る船は、このセスティオ・グォードに係留します。そのため、特殊対応機関の方々は、こちらを拠点として活動します」
あともうひとつ、デュッカが主導して作った遊戯場があるが、これもセスティオ・グォードに係留する。
「で、あとは、この2週間ですることは、秘匿術の構築ですね。来週中に結界石の設置を行って、円の日に間に合わせます。それで、一番アルシュファイドに近くなるのが、北側に配置される島なんですが、秘匿術の内側に、1個、人工浮島を置いて、全島に関わる話し合いをする場にしたいと思います。今は暫定で、この島を使っていますが、カサルシエラ専用の島にしたいんです」
「まあ、カサルシエラ専用の方を改めて作ってもいいがな。そうするか。名称の都合もあるからな」
ゼダンの言葉に、ちょっと考えて、ファルセットは頷いた。
名を変えてもいいが、命名、ということは、そう簡単に覆すものではない。
気持ちの問題もあるが、術の仕掛けの具合に関わる。
カサルシエラ専用人工島ならば、セスティオの名と、グォードという言葉の組み合わせでは、繋がりというものが持てないし、ほかの島にも、それぞれに作るのならば、用途が重なる設置物は、共通の名を用いることで、設置の意図を明確にする方が、分類が容易だし、初めて聞く者には親切だ。
「そうですね。島ごとに対応するものと、全体に対応するものは、名称から分けた方がいい。名称の確定ができ次第、そちらの島の基礎部だけでも作成してもらえますか。島の用途が、あやふやにならないようにしましょう」
「うむ。それこそ、デュッカの寝所を基礎部に組み込もう。利用者にカサルシエラの者が多いはずだ。自分で居心地良くしたものなら、そのまま使いたかろう」
「そうですね!ああ、あの遊戯場も、淡水を多く利用してますから、残すんなら、そちらに、くっ付けてはどうでしょうか」
「うむ。取り組みの始めをカサルシエラとして、彼らと考えてみよう」
「では、そちらは、お前の仕事だな」
ミオトが口を挟むので、ゼダンが、祖父さんはどうすると聞くと、彼は、にこにこと笑って答える。
「もちろん、このセスティオ・グォードを作るさ。個別の術が再構築されれば、必要なくなるだろうが、そう短い期間でもないし、終の住み処には、ちょうどよかろう」
移住するのかと、ゼダンも驚いたが、しかしそれは、自分も惹かれる選択に違いない。
「そりゃいいな!移住先選び放題だぜ!おっし、あれこれ作るぞぅ!」
踊り上がって駆け出すとか、とても推定80代の高齢とは思えないが、楽しそうだから、ファルセットは、よしとする。
「おっ!誰か、うちらの伝達鳥作ってくれよ!ジュールズが作ったやつがいいな!なんか仕掛けが細かいやつ!」
ネイの言葉に、ちょっと笑い声を漏らして、片手を挙げた男がいた。
「俺が作ってやろう。一応、仕様を見せてくれ」
ネイが喜んで、隣のジュールズに手を差し出す。
「見本寄越せ」
「そこは俺なのね…」
ジュールズは、小さく零して、自分の力を固形物とした彩玉(さいぎょく)を使い、術を固定し、この調査団の主要な顔触れで、必要とする者に渡した伝達竜を作り上げた。
それを見たミナが、座っていた椅子から立ち上がる。
「あ、待って。手伝います」
「え?ミナ」
「話は聞いているよ。大丈夫」
言いながら、戸惑うジュールズから伝達竜を受け取り、その男、鷲楓騎士ガルシェイズ・リュードの許へと向かう。
ディークと同世代なので、年齢としては60代か、それ以上のはずだが、40歳になっているものか、首を傾げたくなる。
風の宮公ほどではないが、風の力が強大な騎士で、それだけ見れば、ジュールズ以外の現代の彩石騎士より強い。
年の功らしい力の制御は、かなりのものだが、ハイデル騎士団団員と比べれば劣っているとしか言えず、ミナが整えただけとは言え、ジュールズと同じ技を長期間維持するには、難しい。
「ミナ・イエヤ・ハイデルです。名を教えてください」
「ん。鷲楓騎士ガルシェイズ・リュードだ。真名は、楓の木に止まる鷲とする。お前さんの手伝いが必要かい」
おどけたように笑う様子は、ミナの判断を疑っているからだと知れる。
ミナも、困ったような顔で、ちょっと笑って返した。
「ごめんなさい。その程度の制御だと、苦労します。手早く済ませた方が良さそうなので、手伝わせてください」
はっきり言われて、考え直したらしい。
姿勢を正して、表情を改めた。
「ふむ。ガルと呼びな。どう手伝う」
「ちょっと離れましょう。こちらに」
話し合いを聞きながら、ジュールズの浮遊艇から、デュッカの作り出した広めの浮遊板へと移動して、中央に椅子を用意してもらい、それに座ることで、カルメルほどではないが、大男の括りだろうガルと、目線を近付けた。
「まず、この彩玉竜の中央の塊。彩玉と呼んでいる、人の力の塊なんですが、これから作ってみましょうか。ゆっくり、力を発して」
ゆっくりと言われたのに、抑え気味に出したはずの力は、目を閉じさせるほどの風を発した。
けれど、一瞬あとには収まり、目を開けると、代わりのように、大きいが、綺麗な円形が目の前にあった。
「これは…」
自分で制御している感覚がない。
深い闇に突き落される衝撃に、息を呑む。
自分の力を、操られている…―――!!
「ごめんなさい。気持ちを落ち着けて、向き合って。このまま、力を濃くしていきましょう。あとで均等に分けます」
強く押して宥める声に、我に返る。
戸惑いを押し殺して、状況を理解し、小さく喉を鳴らす。
力を、静かに、目の前の球体に注ぎながら、話した。
「操って、いるのか…」
「違います。要所の力に手を加えて、力の方向を整えているだけ。あなたは土も強めだから、少し入れてみましょう。力の流れも、目に見えるようになる」
言われると同時に、体から土の力が抜けていく。
操られてはいないと言われたけれど、自力で制御できている気がしない。
「ほら見て。土が風に回されている。私は、あなたの力を整えて、内部に留めるよう促しているだけ。風の鋭さが失われていないのが判るかな」
確かに、黒土の色と風を示す緑色が交ざって、見やすくなった内部の動きは、流れの内側に鋭さがあり、そして、その外側には、速いのに、柔らかに見える動きがある。
「もうちょっと風をください。…はい、止めて。球の内部に意識を定めて。分割。解離」
言葉に従い、1個の球の内部で分割された力は、数え切れない小さな力の渦を作り出し、やはり言葉に従って、完全に解離、その場に落下した。
「ぎゃっ!失敗した!」
かわいらしい、本当の慌てた声が上がって、小さな力の球体たちは、空中で集められた。
自分ではない風の力は、彼女の夫、現代の風の宮公らしい。
ミナは、潰れた悲鳴を恥ずかしく思っているらしく、口元を覆って、赤い顔を背ける。
「ご、ごめんなさい、落ちるの分かってたのに」
少女のような恥じらいが、ガルの胸を鷲掴みにする。
なんだか青臭い若者に戻った気持ちを味わい、ガルは、ふふっと、声を漏らした。
すぐに、それは大きな笑いになる。
「わはは!あんた、抜けてんなあ!」
「ぶふあ!そそそんなに笑うことないでしょお!」
怒った顔もかわいいと、手を伸ばすその前で、ミナの座る椅子が遠ざけられた。
「あん?」
ミナを目で追うと、椅子の背凭れがなくなり、腰を、現代の風の宮公に抱き込まれていた。
「もういいだろう、戻るぞ」
「えっ。いや、ちゃんと最後までしますよ」
腕を引き剥がしながら、高くなった椅子から無理にも下りようとするので、デュッカは嫌そうな顔をしながらも椅子を元の位置に戻し、背凭れを作ると、自分も元の立ち位置に戻った。
「ジュールズの作ったのは、透虹石って言う、あ、知ってますね。特殊サイセキの能力を当てにしてて、設定がそれに合わせたものなんで、その辺り、土と風の力量限界のある仕様にする必要があります。ほんとは、ひとつの状態で術まで掛ければ簡単なんだけど、ちょっとうっかりしてて、申し訳ない」
再び頬を染めるミナに、なんでこんなに心が騒ぐのだろうかと、内心首を捻る。
確実に自分は、彼女の親世代以上のはずだ。
外見年齢に自身の意識が引きずられると言っても、ほかの女たちには、年齢相応の者にしか反応しなかったと思うのだが。
どうも勝手が掴めない。
「デュッカ、そのまま、まとめて上げててください。これは暫定の仕掛けです。今後、改めて、作ってくださいね。まずは、この玉をすべて繋げて、力の無くなる玉には、予備の玉から力が流れるようにします。伝達竜の仕様は、伝達特化なんで、同時複数通話まで、できます。基礎の術語はこう。系列竜を繋ぎ、声を届けよ、発する者の望むままに拡散し、正しきを伝える。この時点で、基礎仕様が成るので、細かい指定を後付けします。伝達の起動、伝達の種類、相手の指定ですね。術語自体は、あなたも使うものだと思います。私は、力の流し方を整えますね。まず、玉を鈴にしましょうか。輪を何重かにして、こう、これでやりやすくなった」
またしても、ガルの意識しないところで力が動き、いくつかの彩玉が環に形を変え、横に重なる、その環の下に、残りの彩玉が並んで付いた。
「ん。これは、こうしましょう。必要な時に、中央で鳥を出現させます。さらに必要に応じて、下の鈴を予備として与える。伝達鳥の作成は、こう。黒き雀鷂に風を留める。離れようとも力無くを満たし、声を届けよ。名乗り。まずはここまで」
見本のように作られたのは、黒色に緑が混じる、確かに小さな、鷹に似た凛々しい鳥だった。
ガルがそれを認識した途端、鳥は消えて、戸惑いのなか、目の前のミナが自分を見詰めていることに気付いて、慌てて気持ちを整える。
「黒き雀鷂に風を留める。離れようとも力無くを満たし、声を届けよ。ガルシェイズ・リュード」
言葉が紡がれるなか、先ほどミナが作ったよりも小さな、けれど見た目は鷹のような、色合いは先ほどのものに似た鳥が作られた。
通常の彩石鳥のようには、体は透過せず、表面の光沢によって生物でないことを知らせるが、羽毛の1枚1枚が生きた鳥のようで、触ってみると、やはり作り物とは思えない。
「す、すごいな…」
ミナは、ちらっとガルの顔を見る。
たぶん、いつもは、力量に任せて術の固定をしていたのだろうと、容易に察することができた。
最初の旅の時、デュッカやパリスが、肌触りを実物に近付けてくれたのは、ミナが少しでも癒されるようにとの配慮で、それだけ心を掛けてくれた証しなのだと、改めて感謝を抱く。
「ある程度、保たせる期間がありますから、このぐらい、きちんとした形を与えると、安心できるし、術の固定も確りしたものになります。この事業に長く携わるなら、このくらいは、できた方が便利です。きっと言葉を交わせる鳥たちが多いから、近くで見せてもらうといいですよ。さて、それじゃ!仕込みを始めますよ!」
そういうことで、改めてジュールズの見本の彩玉竜を確かめて、取り入れる機能を選択し、術語を定めた。
それから、彩玉雀鷂の追加生成の設定を整え、常にはネイの手元に置いて、必要に応じて対象者に配るようにした。
今のところは、特殊対応機関の面々と、船長ライネスと船長メドニイ、橡の枝人形と、現在、協力してくれているカサルシエラの顔触れに渡しておく。
「うーん…。先代の彩石騎士の皆さんは、ハイデル騎士団のみんなと、早朝鍛練をお勧めしておきますね!いずれ活動場所が決まったら、滞在場所に基礎修練のできる場所を設けるように、ジュールズ。先代四の宮公とカヌン家のお2人は、まあ、まだ、いい方ですけど。騎士の皆さんは、細かいことをできた方が役に立ちますし、周囲の苦労が減じます。ムト、みんな、悪いけど、お願い。技術面では、学ばせてもらって、技能、特に制御は、応急措置でいいから、今、困らない程度に整えて欲しい。ユクト、選別師のみんなと、その補佐に当たって欲しい」
「分かった」
応じるムトたちに対して、先代の騎士たちは複雑な表情だ。
ガルが首を傾げて言う。
「技術と技能?どういう区別?」
人によっては、曖昧な区分となる言葉、ということもあるが、ガル自身が、改めて区別されると、判別に惑ってしまった。
ミナの方は、辞書と違うかも、と不安を抱きながらも、自分の区別をきっぱりと示す。
「技術は、知識を与えられれば、それをなぞることで同じことができるという区別です。ここでは、術語の構成ですね。その点、皆さんは、使い勝手のいい言葉と、その組み合わせを、多く知っているでしょう。今、彩玉雀鷂に与えた設定だけでも、言い回しひとつで術語をごく短くして見せた。例えば、風ひとつ取っても、風と言うか、鳥と言うかで、求める結果に影響があります。前者には、範囲指定が必要ですけど、鳥は、鷲としておけば、大きさがそこに近いところで留まりますし、塊として意識することができます。その点では、ほかの言葉で縛る必要が無いから、術語の短縮になります。それが、技術」
「いや、しかし、そんなに言葉とか、調べて覚えたりはしてないぜ?」
「そこは長く生きた経験ですね。だって、雀鷂なんて、知ってる人は私の周りに凄く少なかったです。それなのに、あなたはそれが小型の鷹だと知ってたから、私の作ったものを一目見て、雀鷂そのものではなくても、ちゃんと、小型の鷹という設定を作り出して見せた。普段使っていなくても、何気なく覚えたことが、残っているんです。明確でなくても、話し合うことで、記憶が刺激されますから、その程度の知識でいいんですよ」
「そ、そうか?」
なんとなく、頬を掻いて、くすぐったい気持ちをごまかす。
褒められているわけではないけれど、これまでの経験を、とても大事なものだと扱われた思いだった。
「はい。そして技能は、教えてもらっただけでなく、自力で磨かなければ身に付かないことです。そちらは、力の制御になりますね。精錬の仕方、特に、どの部分に重点を置いて精錬したものか。これは個人の性質にもよりますからね。属性はもちろん、力量の大小も関わりますけど。私たちは、こちらでの滞在期間が限られますけど、皆さんの多くは、こちらに残って、やらなければならないことが多いでしょうから、今の内に鍛えられるところは、鍛えないと」
いつの間にか、辺りが静かになっていて、ミナは驚いて周囲を見た。
「あれ、話し合いは?」
「お!おお!ファルセット、進めろ!」
再び始まる話し合いの横で、ミナはデュッカの作ってくれた椅子に腰掛け、視界に入った空の浮島に焦点を合わせる。
あの島には、どんな生き物が多いのだろう。
「一度くらいは、訪れてみたいなあ…」
呟くと、不機嫌な声が聞こえる。
「はあ。いいが、終わったら、絶対、籠もってやる」
「籠もるんですか?デュッカが?」
「文句があるか」
「いや、好きにすればいいんでは…。はあ、じゃあ、その間、私は子供たちのとこにでも行こうかな」
デュッカはもう、どうしてくれようかと、次の言葉を選べない。
「………仕置きだ」
小さな声だったけれど、きっちり聞き取れて、ミナは、びくりと身を震わせ、デュッカから距離を取ろうとする。
「なっ!なにゆえに…」
「じっくり、みっちり、躾けてやるから」
「なっ、なんっ、なんで…」
「ふん!」
なんだかよく分からないけれど、自分は、またなにか、機嫌を損ねるようなことをしたらしい。
理不尽なと思いながらも、ちょっと、様子が、かわいいなとか、感じて、困ったように微笑むミナを、周囲の者は、生温かい眼差しで見て、息を吐くのだった。
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