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―活動Ⅱ 続々と―
海流と同じく、気流も、空浮島の影響を受けるということで、島ごとに距離を取らなければならないそうだ。
「今夜中にも、指定海域に配置できるだろう。大陸に影響の無い形として、横に広げることになるから、しばらく、海路に迷う船が出るはずだ。秘匿海域の外でも、人々向けに対応してくれるといいんだが」
橡に言われて、ジュールズは頷き、アルシュファイド王国に向けて、急ぎ、追加の対処を要請した。
「人に向けては、アルシュファイドの領海内で呼び掛けてくれ。明らかに人工の浮遊物を浮かべて、実力を見せ付けろ。理由については、各国に向けて、事実を開示するのが適切と思う。大筋はこうだ。大陸にも迫る大きさの浮遊島が存在し、人ではない、意思ある生物が多数住んでいるが、これまで通り、交流を控えたいという意向なので、大規模な秘匿術により接触を制限している。術の影響範囲が広いため、命の危険を減じるためには、通常の航路にない南の海域には、立ち入らないことを勧める、だ」
セスティオ・グォードのような浮遊島に、人工物と知らせる特徴…形状を整えるなどでもいいので、与えれば、その存在だけでも、アルシュファイド王国ほどの力のある国には一目置く…どころか、威圧を受けることだろう。
あまり好ましくはないが、友好的な国ばかりでもないので、ここまで大きな影響のある事柄では、非力ではないこと、対処能力があることを示すことは、重要だし、自分たちの言葉に、真実味を持たせることができる。
今後の主導を勝ち取るためにも、圧倒的な実行力の差を見せ付けなければならないだろう。
また、敢えて、問題とする浮遊島の数を明確にしないことで、そこに住む彼らを守る方向に持っていく。
いつまでも隠してはおけないが、積極的な交流ではなく、断絶に近い付き合いを当事者が求めているのだから、島が複数あることまでは知らせることがあっても、その正確な数は伏せておくことが望ましいだろう。
時間差なく届けられる、あちら側から、シィンの深い息が聞かれた。
「分かった、そのように。ところで、ルークとカィンは着いたか」
「は!?何言ってんの!?」
ジュールズが、彩石鳥に食い付かんばかりに身を乗り出す。
昼食を終えて、会合場のことはネイたち特殊対応機関に任せ、今は、その横に設置した調査団用の会合区画で、橡の要望はもちろんのこと、先ほどまでにまとめた話を、アルシュファイド王国と共有しようとしているところだ。
言葉を返すシィンは、疲れたような声を出す。
「さすがにまだか…。昼食後、14時前に出発した。2人は土だから、海面に近い高さでの移動だろうから、いくらか手間取るかもしれんが、夕方までには着くと思う。なるべく早めに追い返してくれ」
「てめ、押し付けてんじゃねえぞ!」
「こっちだって止められたらやっている!ただまあ…、1泊する程度なら気晴らしの範囲かと、甘いことを考えてしまったのは確かだ…」
「この役立たず!そんな彩石騎士筆頭に育てた覚えはありませんよ!」
「………」
沈黙するシィンに代わって、ファイナの声がする。
「……あー…、ジュールズ、すまないが、なるべく早く追い返してくれ。アークに伏せておけるのも夕食までが限界だ」
「おま、そんなこともできないで、女王の夫になれると思うなよ!」
「無茶を言うな、カィンが付いて行くのに、サリの口を塞げるか…」
「この、だめだめ揃いめ!んなのあ、寝台に引きずり込めばいいんだよ!お、そうだ、そう言ってやろう。ルークには効果覿面」
「冤罪だ。しかし一考の余地はあるか…」
「けっ!言ってろ!」
開き直られても面白くない。
「話戻すぞ!で、秘匿海域の内側で、人への応対をするのは、セスティオ・グォードになる。今はカサルシエラの近海に浮かべてるが、遅くとも俺たちが帰国する頃には、アルシュファイドに近い海域に移動するだろう」
「承知した。こちらも態勢を整えて、俺もアークも、顔を出したいと思う。対処は、もちろんネイに任せるが、隣人として、無関係を振る舞うのは不適当だろうからな」
「了承する。キサ、ニーニ、2人でルークたちを迎えろ。レイネムよ、悪いが付いていってくれ」
「うん。いいぞ。キサ、ニーニ、こちらに乗れ」
レイネムが浮遊板を広げて、キサとニーニを乗せて飛び去るのを見送りながら、ジュールズは続ける。
この会話は、ニーニに与えた緑嵐騎士の彩石鳥によって開いている通話により、移動中の彼らも参加できる。
「カィンが来るなら、ちょうどいい。通常航路より南の海域全体に島桟橋を作らせろ。あとで俺が大型船を係留できる程度の高さで浮力を与える。小型船に対応する仕掛けは、別に作れ。空と海の生物の通行を妨げず、船を通せる位置に、綱の太さで全部を繋げろ。数は管理できる範囲で。今のところは、アルシュファイド領海に誘い込んで、1ヵ所で対応。船は通してもいいんだが、恐らく海の縁まで採石に行くか、大陸に戻る冒険者だろうから、目的地に関わらず、うちの護衛船を伴うように交渉させろ。カィンが手間取るようなら、人手を寄越すようにシィンに言って、一先ずルークを連れて、ここまで来させろ」
「承知しました」
ニーニの返答を聞いて、ジュールズはシィンに向けて開いている彩石鳥に向き直った。
「シィン。たぶん、そっちで対応が必要だから準備しとけ。島のすべてを秘匿すれば、その海域は、かなりの広さだ。それでも、秘匿海域の範囲を特定される恐れを低減するために、南の海域全体の船の航行の把握が必要だと思う」
海の一部、それも広範囲を秘匿すれば、船は、まっすぐ南を目指したつもりが、予定以上の日数を掛けた大回りをして、目的地に向かうことになる。
数ヵ月の航行に対応する準備をしている船でも、予定を大きく越える日数で目的地である世界の縁に到着すれば、目的の採石すら諦めて大陸に戻らなければならない。
それぐらいなら、まだ、いい方で、航路を正確に掴めていないのだから、何もない大海で方角すら見失い、食料が底を尽くことになり、命の危険の方が大きいだろう。
島ひとつの秘匿海域なら、数日の誤差だ。
準備した荷物で乗り切れる範囲だろう。
そもそも、おかしいと気付いたとしても、誰も、大陸から離れて、世界の縁までの距離なんて知らない。
生きて大陸に帰ることができるのなら、それでよいのだ。
世界の縁に当たる海域に沈む彩石を採取しようと船を出し、無事に帰還した冒険者としての先達から話を聞いて、また、彼らの船に乗せてもらうことで、実際の航路を経験して、この船の能力ならばこの程度の期間を必要とするだろうと、覚え、また、後進に伝えていく。
人々が持つのは、その情報だけなのだ。
今にして思えば、どうしても世界の縁までの距離を断定できなかったのは、これら隠された浮島の数々によって、同じ海路を辿ることができなかったからなのだろう。
ジュールズたち、風の力の大きな者は、一度は世界の縁まで行ったけれど、その場所の様子を見られればいいだけなので、距離を明確にしようと思う者はいなかった。
また、範囲の把握はできるのだが、目印の無い場所では、距離を知ることはできない。
実際に移動した時間と速度によって、おおよその距離は判るはずなのだが、これまでは、長時間、速度を一定に保つ、ということは難しい作業であったため、少なくとも、現在、生きている風の者たちの中に、世界の正確な大きさを知る者はいない。
これは、地底にある世界の縁を探ることのできる土の者も、世界の縁まで届く海の水を探ることのできる水の者も、同様のこと。
火の者は、火の気配を知ることはできるので、火の鳥獣が多い浮島を知ることはできるが、彼らは多く、火があることを予想できる場所しか探らないので、その存在すら知られていなかった、火の鳥獣の多い浮遊島のことなど、まず、探ることがない。
そして風の者と違って、土、水、火の者は、世界の縁を見てやろう、と思うには、自力での移動手段が、他者や環境に与える影響に配慮することが面倒か、自力で移動できなかったかのどちらかだった。
「分かった。そちらの対応を急いだ方がいいな。南海に面した国々と友好関係を築いておいて、助かった」
「んお。そういや、そうなんか。はあ。お前らも、よくやったなあ…」
国政から離れていた間も、アルシュファイド王国の動き、彩石騎士の動きは、情報伝達紙の知らせる範囲で知っていたし、国政に戻ってから現在までに、特に彩石騎士の働きは、ジュールズ自身は直接関わっていなくとも、大凡は把握したのだ。
「内陸や北の国が南海に船を出していないわけではないから、安心はできない。秘匿海域内のことはネイに任せられるが、外側は俺たちの領分だな。しかも政王の。ルークを行かせたのは、まずかったな…」
これは、無理にも途中で引き戻す必要があるかと思案する言葉を受けて、ミナが声を掛けた。
「シィン。そこまで厳しくするのは、得策じゃない。今後も、休暇には遊びに来られる程度の枠組みを定めた方がいいよ。ここは、別の国じゃなくて、おっきな家なのよ。隣家に遊びに行くのに必要なのは、家人の許可でしょ」
シィンは、返す言葉を考えるように沈黙を聞かせた。
ミナは、少しだけ時を置いて、けれどすぐに続けた。
「シィン。この海域の窓口は、アルシュファイド領海内になる。そこは絶縁結界外だけど、ルークの領分内だよ。立ち入ることを制限するのは、適切ではない。そして、領海外に彩石騎士が力を及ぼすのであれば、それは祭王は手を出すことではないけれども、掌握していなければならないことでもある」
息を継いで、ミナは続ける。
「きちんとした取り決めは、これからになるけど、基本姿勢として、祭王に対して、この地を立ち入り禁止にすべきではない。けれども公式に単独訪問もするべきではない。ただ、祭王の行動すべてを、他者は強要できないよ。完全な私人として認められることはないけど、彼が、彼自身の力で自由に行動できる範囲での交流は、私たちは、国民として、許容の範囲に含むべきと思う」
屋外ながら、静かなこの場所で、ミナの声が、彼らの胸に、強く打ち付けられる。
「だからね、シィン。今回のことは、ルークは褒められないことをしているけど、止めなくていいよ。反省だけ、促せばね」
シィンは、長めの沈黙を置いて、分かった、と答えた。
ミナは、ちょっと笑うと、うん、と返して、表情を改めた。
「今回の訪問については、バルタ クィナールで迎え入れる。ただ、なるべく、宿泊させずに、夜の内に王城まで届けるよ。彼の限界を見誤った私たちの落ち度も、見過ごしてはいけないことだけど、今、この状況での形式を先に整えないといけない。ルークは、ちょっと疲れたから、昼以降、休みを取って、気散じを兼ねて、友人のところに様子を見に来たのよ」
「………。甘やかしているように聞こえるが…」
ふふっと、ミナは笑った。
「それは仕方ない。正直な気持ちが混ざるのは。ただ、やっぱりこれは、私たちの落ち度なのよ。王という存在は、本人ばかりの努力ではない。それを望む者たちの気持ちの強さなのよ。投げ出さずに、どうか、その椅子に、いらっしゃいますようにとね。そう相手に求めるのだから、私たちも、そこに掛かる負担を減じるために、できる努力をすべきで、それが及ばなかったために、この事態になっているのだと、認めなければならないわ」
ミナは顔を上げて、ジュールズを見た。
ジュールズは、役目を思い出して、頷いた。
「キサ、ニーニ。ルークには説教するけど、今更、逃がさねえぜ。しっかり捕まえて連れて来い。シィン、今後の祭王の休暇対応を親衛隊長に」
「承知。迎えの船を用意させているんだが…」
「領海の南端中央で待機させとけ。時間によっては浮遊艇を寝所型にするから、それを船尾に繋げて戻るようにとな。休暇対応の形としては、ロアに浮遊艇の土台を作らせて、デュッカが帰り次第完成させる。維持は主神殿に透虹石の本体を置いて管理させろ」
透虹石は、本体部分と利用部分に、完全に分離して使用できるが、本体部分には、利用部分で使用されただけの力を補充しなければ、利用部分に必要な力量を供給できなくなり、術による効果の減少や停止を招き、力が無くなった時点で、通常のサイセキ同様、本体も、その一部である利用部分も、消えてしまう恐れが高い。
話を聞いていたミナが、そこで声を上げた。
「あ、待って。主神殿じゃ遠過ぎるから、表神殿に四の宮が集まって作業する場所を設けようよ。四の院の共同作業場も置いて、術を付与した透虹石の管理場も置こう。休暇は私的な時間だけど、親衛隊が同行するなら、そっちは公務の内だもん。透虹石の管理のためには、地下に置く方が人の出入りを制限できると思うから、四の宮と四の院の公的な利用を地下1階、チュウリ川の空間を置いて、その下の階に休憩場を設けて、その下に作業場、という感じ。ついでに、透虹石の誰かに、以前の尖塔内の造りを聞いてみて。御寝所としての役割も戻すようにして、これまで通り、1階手前に、誰でも立ち入ることのできる結界石の間を置いて、御渡に備えよう。あ、それは、あるんならいいの。私、そう言えば、尖塔内部それほど見てないし」
「お、おお…え、と、じゃ、シィン、」
なんか、また仕事が増えたぞと汗を流しながら、押し付け場所を求める。
「四の宮に話して、そちらに応じさせる。ジュールズ用の執務室も作るように言っておいてやるから、戻ったら、よく話し合え」
まだ完全に投げ付けてもいないのに、ぐいぐい押さえ付けられて身動きが取れない。
そこに、ミナの声が、するりと入る。
「表神殿の改築が済むまでは、まあ、創建局の親衛隊居室にでも置いといたらいいんじゃないかな。彼らのための設備だから」
言ってから、装備かと呟く。
「透虹石は使い勝手が良過ぎるね…規制も視野に入れるべきかもしれないけど、先に流出を止めた方がいい。シィン、ルークの方は話だけでいいから、アークの方は注意喚起を。使わないじゃなく、使う前に制限を掛ける処置を目指す方がいいと思う。多くのサイセキに言えることだから、特定サイセキも含め、術語の見直しも必要かもしれない。ちょうど採石制限中だから、今の内だね!」
「そ、そうだな…」
油断するとすぐ、こちらに来る。
シィンは、呻き声を抑えるために、どもってしまう。
ミナとしては、自分が言う程度のことは、既に対策に動いているほどだろうが、自分が気になるので発言しておく、という感覚なので、特別な事柄を挙げている意識はない。
相手の様子が、おかしいなとは思うが、原因が自分にあるとは、考えないので、ほかの理由を探すことになる。
「ん?なんか、あった?元気ない…そうだ、そろそろ、お茶の時間だね!休憩しよう!」
都合が良いのか悪いのか、ちょうど茶の時間だ。
昼からの仕事での、主に気疲れがあるのではとの配慮だが、当たっているようで、的からは外れている。
さておき、話が途中なので、通話状態のまま、こちらもあちらも、その場で茶をいただくことにした。
キリュウたちにも声を掛けて、近くの休憩場で茶と、護衛のキドとベンからは補食を勧めてもらい、遠くから、その様子を眺める。
「だいぶ、仲良くなったみたいだね…。あの子は、竜人の子かな?獣人の子かな?分けるのは変なのかな…」
ミナの呟きに、シュティンベルクが答えた。
「あれは熊人、熊だ。竜人も獣人の内だがまあ、水竜の島なら、竜人の括りが必要な場合もあるだろう。鳥獣という言葉があるように、鳥人だけは多く区別されるがな。そう言えば、そろそろ彼らが来ても良さそうだが。島の方で何かしら、手間取ることがあるのかもな」
「人以外の原初の生物には、性別がないんだっけ?」
「そうだ。二容姿の者たちは、その創造に力の在る言葉を含む。その頃には、原初の人々に、後付けだったが、男女で子を生す造りを加えていたから、二容姿の彼らにも性別がある。彼らを源として、始まる、種族の広がりを願い、原初とは違う、源始(げんし)の生物と分けた。原初の子たちが、双神の想像の及ばぬ存在となったため、源始の生物も、その後から造られるようになった、言葉だけの言始の生物も、できるだけ源を交わすようにと、直系とそれに近い流れでは、子を生し難いという話だ」
「ふうーん。アルシュファイドで親兄弟での婚姻が認められないのは、子ができないからなの?」
「どちらかと言うと、双神の意思を酌んだものだろう。源から流れる水のように、ある者は地を潤し、植物を育て、ある者は動物の渇きを癒し、生活の場を与え、ある者は広い大海で自由に泳ぐ。マデリナたちは、子を持って、親子間や、兄弟姉妹間に恋慕があることに、自立の不確かさを感じたということだった。実際に、ほかの家族と親交を深めれば、自立を促せたし、そうなると、それまで家族に持っていた恋慕を、誤認であったと確かめられたそうだ。ただ、そればかりかは、言い切れないということで、国として認めないという姿勢を示すことで、ほかに目を向けることを促すことにしたそうだ。だから、恐らく、本当に家族に恋慕を持つのであれば、抜け道は用意されているはずだぞ。そこまでは、私も詳しく知らない」
何気なく聞いたことに、思いがけなく確りとした返答があったので、ミナは驚いてしまう。
「う、うん。そこまで知ってればすごいけど。シュティンベルクは、かなり建国を近くで見てたの?」
「まあ、本来の大きさで、あとを付いて回るということは、なかなかな。王城の部屋が全体的に大きいのは、我らを入れてくれるためだったが、私は特に、飛ぶ者だから、どの道、屋内は手狭だ。あまりに大きさが違い過ぎるので、今は、同時に作っておいた、小さな方の扉しか使っていないようだな」
「へ!?大きい扉があるの!?」
「ふん?気付いていなかったのか。ああ、そう言えば、いやに政王の間が狭いと思ったが、あれは部屋を区切ったのだな?まあ、通常の扉が必要なのは、あの頃、小さくなれなかった私ぐらいのものだから、忘れられるのも早かったろう」
ミナの仕事場…あまり作業場としては使われていないが、とにかく、彩石判定師室は、2階まで突き抜けているので特に高いのだが、思い返せば、よく出入りする隣のハイデル騎士団居室も、1階分のはずなのに、かなりの高さを保って、天井がある。
部屋全体の大きさもあるので、城、という特異な存在であることから、こんなものか、と深く考えなかった。
「そうなんだあ…!帰ったら、開け方教えてね!」
「うむ」
そんな些細な約束を。
できることが、嬉しい。
シュティンベルクの吐く息が笑っているようで、ミナも、嬉しくなる。
そんな和やかな遣り取りを、周囲は、動揺を抑えつつ聞いていた。
特に隠されているわけでもない扉の存在を、知らずに部屋を使っていたことに胸が冷える。
先入観て恐ろしい。
いや、忘却こそが最も恐れるべきことかもしれない。
シィンは、彩石騎士居室の何もない空間で、アルたちに遊んでもらっているナムリを見て、一度、王城のすべての部屋を確認するのに、付き合ってもらわなければならないなと、心に留めた。
警護の面では、ひどく間の抜けた話で、立ち直るのには、ちょっと時間が必要かもしれない。
改築を請け負った建造師たちから、話はなかったが、既に改築の終了した外務省の区画に携わった者たちにも、確認を取る必要があるかもしれない。
まあそれは、大きな扉とやらが、そこにあればの話だ。
政王執務室が現状で狭いのなら、この彩石騎士居室なども、昔には、政王の間、と言ったか、そこを区切って、今、在る扉を、壁に後付けしたと考えられる。
建国当初は、主要なだけでも、多くの者が集まって話し合わなければならなかったのだろう。
問題がアルシュファイド王国に止まらない今、携わる主要人物の数を思えば、会議室ではなく政王執務室に多くの人の出入りが必要だったことが容易に想像できる。
それこそ、シュティンベルクも参加したのだろうし、今は小さな窓だが、その頃には、外から入れたのかもしれない。
いや待て、今の話に出なかっただけで、窓も、広がるとか、なんか、そんな、仕掛けが…。
シィンは、そこまで思い及ぶと、堪らずに両手で頭を掻いた。
この話が終わったら、気散じを兼ねて、王城内を見回ろう。
そんな時間が取れるものか、ちょっと不安なのだけれど、確認せずになんて、いられるわけがない。
遠くに在るシィンの胸の内など知りようもない、この場で、ふと、シュティンベルクが空を見上げた。
「おお、噂をすれば影が差すとは、よく言ったものだ」
言葉が終わる頃には、その者が鳥の姿であることと、後続の鳥やら、何やらが上空に複数在ることが知れた。
騎士たちは素早く態勢を整えたが、攻勢と思わせたのでは、余計な軋轢となりかねない。
立ち位置を変えるに止め、降り立とうとする場所を広げるように努めた。
最も速かった鳥は、かなり上空で急停止すると、人の姿に変わって、ゆっくりと、この場に降り立った。
「空の者たち。場所を広げるから、少し待て」
デュッカが言って、その言葉の間にも、この浮遊艇の形が整え直されていった。
騎士たちは、形が落ち着くのを確認して、さらに立ち位置を改め、続々と降り立つ者たちを、確りと視認した。
「シュティンベルク!あの秀麗な姿をどうした!」
随分と慌てた様子で、第一声が、それなことに、人々は、どうもシュティンベルクは、かなり心酔する者が多そうだと、予感を持った。
当のシュティンベルクは、くすくす笑って、彩石鳥から言葉を紡ぐ。
「ナムリたちと同じよ。変われるようにしたのだ。久しいな、マーカルベルト。元気そうで何より」
「あっ!ああっ!シュティンベルクか!その声は!ああ!彩石鳥なのになんと」
「うっさい、ばか鳥」
人の男の姿となったマーカルベルトの真後ろから襲撃した女は、全体的に黒い彼とは、はっきり違う、赤の目立つ人の外観だ。
彼女は、シュティンベルクに向き直ると、ちらりと、肩を貸しているデュッカの顔を見て、それから口を開いた。
「シュティンベルク、久し振り。その男は」
あまり友好的とは言えない様子だが、シュティンベルクは笑い声を聞かせる。
「うむ。私の家族だ。そう思ってよいのだろう?」
顔を離して、自分の表情を見るシュティンベルクに、デュッカは、ちょっとだけ、なんとも言い難い、と言わんばかりの顔を見せると、首肯した。
「そうだな。シュティンベルクの家族の1人、デュッセネ・イエヤだ。デュッカと呼べ」
ミナは、急いで立ち上がった。
「あっ!私も、シュティンベルクの家族です!ミナ・イエヤ・ハイデルと言います!」
「わー!俺様もシュティンベルクの家族だ!そうだよな!」
アルシュファイド王国の代表者としての品格など引き剥がして、ジュールズが叫ぶと、シュティンベルクは、やはり、くすくすと笑いながら言った。
「まあ、デュッカとミナの家族だからな、そういう括りだな」
「ちょっと!なんでそんな微妙な違いを持たせようとすんのさ!」
「まあ、レイネムの相棒の家族となると、色々と、ややこしい」
「レイネムだって家族だもん!」
「だ、そうだが、レイネム」
「うー…ん…。まあ、無理はないかな」
彩石鳥の向こうからは、なんだか、はっきりしない答えが返る。
シュティンベルクには、レイネムの複雑な表情が目に見えるようで、笑ってしまう。
「ふふっ。では、そういうことにしよう」
いくらか釈然としないけれども、話が落ち着いたので、ジュールズは姿勢を正した。
「緑嵐騎士ジュールズ・デボアだ。アルシュファイド王国から、カサルシエラの調査に来た団体の責任者だ。あんたらは、空に浮いてる浮島の、どっかから来たのか?」
「そうだ。シュティンベルクに家族を与えてくれてありがとう、デュッカ。ミナ。ジュールズ。レイネム。レイネムとは面識がなかったかと思うが、透虹石のか」
赤い女…たぶん鳥人が、そう言ってレイネムの声が聞こえた彩石鳥を見ると、竜だと答えがあった。
「私は、大陸は、かなり巡ったが、浮遊島の方へは、行かなかったから」
「竜の中でも透虹石は、私たちが生まれた頃には、人の連れを得ていたと聞いた。相棒が収まりがいいのか。それで見ることは難しいだろうとな。姿は、それなりに大きいのだろう?」
「うむ。今は小さいが、まあ、本来であれば、シュティンベルクぐらい?」
「そうか。改めて、私は鳥人のフレルフィア。磁鳥たちの空浮島から来た。このマーカルベルトの面倒を見るのを押し付けられたんだが、シュティンベルクに会えて嬉しいよ。何より、大切に思う者が多いことがな」
「ふふっ。ありがとう、フレルフィア。さて、名乗りは、追い追いで、いいのじゃないか、かなり多い。ジュールズ」
シュティンベルクが促してくれたので、ジュールズは、急いで言いたいことを整える。
「おっ!そうな!あとから来た者たち、聞いてくれ。そっちの人工浮島が、名をセスティオ・グォードとしたんだが、しばらく、秘匿海域内での人との会合場になる。会合場は、全部で5ヵ所、東西南北の沿岸と、中央に、ひとつずつだ。今、居る、この浮遊艇は、アルシュファイドから来た者の、今後の動きとかを確認するために作ったから、話を聞いてるのは自由だが、判らない名称とかを説明してやる時間を持てない。だから、疑問とかを解消したいなら、そっちの島の会合場に居る者に声を掛けてくれ」
「分からない名称」
「そう。現在の双王の名前だけでも、あんたたちは知らないし、俺たちも、知りたいことがあれば、自分たちで纏めたものを、あんたたちに聞くんでなきゃ、手間が増えるし、情報が錯綜する。例えば、今、言った、じちょうの島ってのも、まあ、鳥の島なんだろうけど、じ、て何って思う」
「ああ。まあ、うーん。まあ、面倒かもな…」
そのとき、アルシュファイド王国の王城の彩石騎士居室と通話が繋がる彩石鳥から、ナムリの元気な声がした。
「磁鳥は土の鳥なんだよ!磁石のこと!磁石島は石の特徴を持つ鳥獣たちの島だよ!ほとんど空浮島だね!ちょっとだけ海に浸かってるのとかもあるけどね!」
「誰?」
眉根を寄せるフレルフィアに、答える声。
「僕ナムリ!話せるようになったの!フレルフィア!会いたいなあ!僕もシィンと、そっちに行くね!いつかなあ!ねえ、シィン、いつかなあ!」
「ああ、そう遠くはない。すまない、姿は、今は見せられないが、現在の白剱騎士でルゥシィン・マナ-レグナ・ヴィーレンツァリオと言う。シィンと呼んでくれ。こちらは、アルシュファイドの王城なんだ。会話だけ、できるようにしてある」
「へえ。人は便利なものを作ったね。ナムリ、私も会いたい。そう、白剱騎士。マナ-レグナ。ヴィーレンツァリオ。ナムリをよろしくな」
ひとつひとつ区切る様子は、それぞれが示す意味を、噛み締めているようだった。
シィンは、気持ちが伝わるように願いながら、ゆっくりと言った。
「ああ。大切な相棒だ」
「そうか」
声の調子に変わるところはなかったけれど、フレルフィアは、少し長めに、瞼を閉じた。
「うふふ!相棒!シィンの、相棒!」
嬉しそうな声には和まされるが、こんな調子では、話が進まない。
「悪いな、話を戻す。俺たち調査団は、カサルシエラに掛けられている術の更新を前提に、調査に来たんだが、話が大きくなってきて、秘匿結界の構築にも、少し関わらせてもらう。アルシュファイドからは、もうひとつ、活動してる集団が来ててな、そっちは、前代の政王が代表で、まあ、先代の白剱騎士が取りまとめをしてくれてる。前代政王はネイと呼んでる。先代の白剱騎士は、2人いるんだが、そのうちの1人で、皙煉騎士のディークが世話をしてくれる。服装で騎士を見分けられるなら、誰かに声を掛ければ、自分にできる案内をするだろう」
「うーん。まあ、なんとなく判るかな。それでは、その、先代の2人を探すとしよう」
「ああ、こっから見えるんだが、浮遊板を作ろうか、まとまって移動した方が、後から来た者だと判りやすい」
「では頼む。来い、マーカルベルト」
そうして、何頭かは、ジュールズが作った、簡単な浮遊板で、こちらから見える会合場の湖の中央付近に居るネイたちの許へと向かい、何頭かは、この場に残った。
茶の時間を中断されたが、その調えをしてくれたバルタ クィナールの接客係たちが、残った彼らに、水などの口に入れる物を勧めて回る。
冷めてしまった茶で、喉を潤した調査団は、話を続けるために向き直った。
「さて、今後だが、明日、明後日は休日とする。親睦を深める催しも用意はしてるが、始めだけな。幸い、人工浮島が出来たんで、騎士以外の調査団の者たちで、船を降りてくれてもいいぜ。子供たちを連れてくのはいいが、こんな状況だ、俺かデュッカを伴うようにしてくれ。なるべくは俺が側に居るようにする。円の日は、全島調査、翌日の暁の日は、心身を休めるように努めて欲しい。翌日の朔の日に、ミナには、秘匿術に使う彩石を揃えてもらうので、ハイデル騎士団は、全員が同行か?」
ジュールズの言葉に、ムトは頷いた。
「ああ。休日が2日以上あるから、ハイデル騎士団は分けることにする。今週の藁の日は、ミナの同伴が多い者たちを揃って休ませるから、ミナ、デュッカ、完全な警護解除ではないが、なるべく、ミナの護衛としては、外すようにする。主に支援隊への対応だ」
「あっ!、わっ、分かった…」
アルシュファイド王国を離れての、この判断は、とてもとても驚くことで、けれども、イルマたちの様子を見ると、不満そうだが、予め話があり、了承したことのようだ。
すごく、悪いこととは思うのに、嬉しい気持ちが溢れそうで、ミナは、表に出すことを抑えるのに苦労した。
デュッカが、頭に手を置いたので、きっと彼には気付かれただろう。
その間に、ジュールズは続ける。
「来週の繊、朏、半の日は、カサルシエラの調査をするが、秘匿術の構築に必要なことがあれば対応する。来週の藁の日も、休暇とするので、頼むことがあるかもしれないが、待機する必要はない。翌日の円の日は、大規模秘匿術が構築される。そちらに不具合が無いかなど、確認作業をしてもらうことになるだろう。適度に心身を休めて、備えてくれ。これら休暇は、調査のための体調管理期間なので、勤務日とする。振替休日については、帰国後に採否や指示があるはずだ。まとまった休みでない者もいるが、体調管理に努めて欲しい。調査団としては、このような枠組みでの予定だ」
ムトが引き継いだ。
「支援隊騎士班は、2人ひと組なので、休暇は1人ずつ分かれて取ること。明日の半の日だけ、支援隊全員を休暇日として、なるべく固まって行動して欲しい。騎士班は、休暇の者が在る間は、警護の不備を補うために、同じ騎士班の者と連携するように。警護対象の支援隊の者たちには、いくらか、単独行動を控えるように要望を出すことになるが、互いに都合を擦り合わせて欲しい。翌週の藁の日は、個別の護衛を外し、多くは休暇の少数勤務だ。騎士班以外の者は、単独行動は許可しないので、支障があれば、ハイデル騎士団の者に相談してくれ。騎士班の者は、気になることがあれば、報告の形でなくとも、逐一騎士団に声を掛けてくれ」
息を継ぐと、ムトは警護隊の固まる辺りへと、顔の向きを変える。
「付従者警護隊は、必ず1人が護衛として立つこと。コルトとゲイルは、勤務日は、どちらかに付いて回り、もしもの場合の一時的な交替に備えてくれ。警護隊は、この休暇日は、自由行動勤務と考えてくれ。体調の整えを第一に、調査団全体、船とその乗組員など、この現場全体の観察に務めて欲しい。騎士班には、どんな状況だろうと支援隊の者たちを守ってもらうのが第一だが、警護隊は、ミナと付従者の目的の達成を視野に入れてもらいたい。同じように全体を見るのでも、見方が違うことは、胸に置いてもらいたいんだ」
騎士たちは、理解には、まだ及ばないけれども、深く頷いて、心に留めたことを示した。
ムトは、1人1人の目が、確りと自分に定められていることを認めると、頷いて、先を続けた。
「今回の任務も大切だが、今後、ここに集まる、カサルシエラ以外の島に、個別に術を掛ける時に、何らかの役割があるかもしれない。そのような対応の仕方も含めて、それぞれの役目で必要な事柄を押さえてくれ。支援隊は、期限のある団体だが、ここで行うことは、後の世代に遺す必要がある。そこまでの展望を持って、自分の職務に応じた行動の適否を考えてもらいたい。それでは、今日はここまでか。警護隊と支援隊は休んでくれ。俺たちも休む」
「お。ファルセット、レッド、カルメル。お前らに休みはありません。何故なら俺様にないから!ファルセットは俺に同行な。レッドはカルメルと、調査団が多いとこ、様子を見てろ。キサ、ニーニ、そっち、どうなってる」
ニーニの声が返った。
「合流しました。引き返します。島桟橋だけ簡単に作って、付近を巡行中のアルシュファイドの軍艦が、要所に配備されます。領海内の島桟橋は、迎えの船の係留場ともなるでしょう」
「お。それなら都合いいな。ニーニよ、明日は、キサと一緒に親睦遊戯に参加しろ。親睦も重要なんだが、一番に考えてもらいたいのは、人以外の生物の観察だ。生態も関係はあるが、彼らの意識の有り様を、お前たち2人、理解するように努めろ。お前たち自身の成長に期待する」
「承知しました」
「っ、承知しました!」
息を支えながらも、キサの声が届く。
ジュールズは、ちょっと笑って、それから、トーベリウムを見た。
「トーベリウムも、明日は自由にしろよ。旧交を温めたいだろ。俺は大体キリュウ連れて気になるとこを見回るつもりだ」
「うーん、じゃあ、その時々で行動する」
「調査団の誰かが一緒だと助かるな。ハイデル騎士団がいいだろう。まとまってるに越したことはないが」
「分かった。気に留めておこう。それじゃあ、湯浴みに行くな」
「お。トーベリウムも湯に浸かるのが好きなの」
「ああ。豬は、皆、好きだと思うぞ。欲を言うなら、大きな浴場で皆と入りたいな!イエヤ邸の大浴場で子供たちと入るのも楽しい!」
「へー…、あ!それ、いいな!遊戯じゃなくて、大浴場!混浴がいいよな!」
ファルセットが声を押し被せる。
「それ名案だよ、トーベリウム!ゼダンじゃなくてミオトに話してみようよ!セスティオ・グォードに作ってくれるかも!」
「おお!岩漿島にもあるが、温度が高いからなあ!いつなら作れる!?」
「今から、話してみようよ!それじゃジュールズ、行っていいですよね!」
「お前さあ、俺様の妙案はどこ行ったのよ…」
「ミナに言い付けます」
「おうおう、脅しも打てば響くようになりやがって…」
ジュールズの、ぼやきを背に、ファルセットはトーベリウムと駆け出した。
「さあーてと!あとはルークたちの到着を待つか」
ぐるりと見回すと、人々の、ばらつきを確認し、キリュウの位置も確かめ、ジュールズはシィンに呼び掛ける。
「そっちも適度に休めよ。ほかは、なんかあるかよ?」
「ああ。少し気になるのが、北のクラン・ボルドウィンがケイマストラ国に入国したという話だ。そちらの国の商人と行動を共にしているようだから、商談の展開があるかもしれない。現在の取引が影響を受けると思う。早めに確認させる」
「ふうん…分かった。南の絶縁結界…」
「まあ、ミナが関わるとすればな。ヴァッサリカ国の南隣国でもあるので、気に留めたい国だ。国状は現在、安定しているが、火種はある。注意はしている」
「ヴァッサリカ…どっかで聞いたな…」
「友好国であり、火山結界構築の協力国だ。サーシャ国と友好関係を築きつつある今は、陸路での交流を整えられないか、状況を見ているところだ。ほかにも、気に掛かることがあるのでな、名を出しておく。では、そちら、頼む。また、ルークの動向が確定したら、連絡をくれ」
「分かった!通話終了!」
「通話終了」
気付けば、調査団の者は、レッドとカルメルだけになっている。
「お。ありがとな。ごくろうさん。レッドよ、ケイマストラ国の名は、ファルセットにも出しとけ。クラン・ボルドウィンは、北港の統轄補佐の1人で、最も広大なハクラ港を受け持っている。これには、ボルドウィン家が、代々、ハクラ港の多くの事業の所有者であることが関わる。つまり、それだけの規模の事業を扱えるほどの商人てことだ。てか、お前、ハクラ港て知ってっか」
北港と言うのは、大陸の北の海、北海に面した、アルシュファイド王国の北沿岸部一帯を占める港全体を指しており、なかでもハクラ港は、チュウリ川を挟んだ東海岸部のほぼ全域を占有している。
「あ、国内最大の港ということぐらい…ですが、騎士隊と兵士隊に対応する軍港を抱えているのですから、かなりの、規模ということは、その、クラン・ボルドウィンという人は、一体…」
「はっ!いい男だが、食えない奴だよ。ふふっ!また、あいつと会えるかな!」
そう言って、大きく体を伸ばす。
「キサ、ニーニよ。俺も、一旦、湯を浴びるから、通話を切る。レッド、カルメル、2人が戻ったら、交替で休め。ルークを船から出すな」
「承知しました」
「承知。レッド、鍛練場に行こうぜ!なんか、楽しげなのやってる」
「あ、はい。では、ジュールズ」
「おー」
不意に、レイネムも居らず、1人になって、ジュールズは、風の穏やかな会合場から、足を踏み出した。
渦巻く風を踏んで、船に戻ると、まだまだ、多くの生物が、人々の作った船を、興味深そうに見回る姿がある。
円の日には、全員、出さなきゃなと、ちょっと笑って、ジュールズは宛てがわれた部屋に戻った。
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