調査4日目、親善

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       ―休暇日Ⅰ 家―    ジュールズは、朝食の席に、大きな体に戻ったセイエンを加えるべく、なるべく皿数を減らしてもらった食事を、保護しながら、外に運ぶことにした。 デュッカの(こう)祖父イーリヤ以下、尊属に当たる者たちや、ほかの四の宮の血筋の者たちが、ミナと話したいと寄ってきたが、話があるんですー!と強硬に言い張って、周りを囲ませる形で腰を置くことになった。 「まったくもう、落ち着かないったら」 新たに作り出した浮遊艇で、食事場所を整え、ほかの者の配置を定めて、ジュールズは、ふん、と鼻息を荒くする。 「それで、話とは?」 ヘインが、どこか心配そうにジュールズを見る。 話題は、ひとつしか、思い浮かばなかった。 ジュールズは機嫌を直して、整った食事の席に座った。 「まあ、座ろうぜ!簡単な話だ!」 そうして、(ひと)()ず腰を落ち着けると、口を開く。 「今のとこ、キリュウのことは、保護者不在で、彩石騎士の俺が預かっている状態だ。そこを正式に、俺、個人が、保護責任者として登録する。サキ、エオ。お前たちの保護責任者は、このまま待つことになるが、()(どう)としての役目は、任せる。休日の区切りは付けるが、これまで通り、キリュウを頼むな」 「はい…」 不安そうな、いや、()(どころ)のないことを、心細く思っているのだろう。 2人とも、そんな目だ。 ジュールズは、近い位置に()るサキの頭に手を置いて、軽く髪を混ぜた。 「お前たちの保護責任者までは、引き受けられねえが、ちゃんと、落ち着くまで、待つからよ。あのイエヤ邸で、それまで、待ってろ。あの家は、それまでの、お前たちが帰っていい場所だからよ」 「うん。サキ、エオ。あなたたちが落ち着くまで、見届けたいから、()て欲しい。それまで、一緒に()てくれないかな」 「ああ。コーダたちと同様に、今、使っている部屋は、お前たちのものだ。新たに、家族と言える者が出来て、(やしき)を出たとしても、いつでも、滞在しに来ていい」 ミナとデュッカが続けて、そう言い、サキとエオは、順に3人の顔を見回して、やがて、こくりと頷いた。 その心情は騒いでいても、それほどに、荒れているものではないだろう。 そう判断すると、ジュールズは、ちらりとキリュウを見て、それから、ヘインとセイエンを交互に見た。 「それで、これは、保護責任者になる俺からの頼みだ。しばらく、ヘインとセイエンには、キリュウの(そば)()て欲しい。保護責任者の変更は、考えの内ではあるが、それはキリュウに必要となるならだ。現時点で、俺は、キリュウを、負う覚悟をしている。けど、育てる自信は、無いからさ。イエヤ邸の使用人とか、頼ろうと思ってんの。ミナ、デュッカ。頼む」 ミナが答えるより早く、デュッカが言った。 「いいだろう。俺たちからも、そのように頼んでおく」 ジュールズは、照れたように笑った。 結局のところ、デュッカも充分、ジュールズに甘いのだった。 「うん。よろしくな。それで、ヘインとセイエンには、イエヤ邸の使用人たちと同じく、キリュウに必要だと思うから、(そば)にいて欲しいんだ。その先のことは、キリュウに合わせて、対応していこうと思うんだ。家族っていう枠組みは、今は違うと思うんだけど、イエヤ邸に居住する、家人(かじん)の1人として、キリュウを置きたい。あの家を、キリュウの居場所にしてやりたい。だからもし、ヘインとセイエンが、保護責任者としてキリュウを負うことを考える時は、相談して欲しい、その形を。イエヤ邸に、ふたりが入ることも、選択肢の、ひとつにしたいんだ。ミナ、デュッカ、どうだろう。了承してくれるか」 ミナは、にこりと笑い、デュッカは、その(あいだ)に、何事か考える目を見せたが、すぐに頷いた。 「いいだろう。ヘインとセイエンは、どうだ」 セイエンが、前に身を乗り出して、興奮を示すように尻尾が振られたが、すぐに、ヘインの答えを問うように、そちらを見た。 ヘインも、相棒の顔を見て、話の内容が判らず見上げるキリュウを見て、顔を上げた。 ジュールズに答えようとして、息を()め、セイエンに顔を向ける。 「セイエン、どうしたい?」 セイエンは、頷いて、答えた。 「僕ね、キリュウと離れたくない!きっと、ヘイン、元気なくなっちゃうよ!それに、僕、キリュウと一緒に()るのがいい!みんな一緒が、気持ちいい!」 ヘインは、大きな相棒の首を撫でて、目を閉じた。 決められていないことが多いけれど、はっきりしていることが、ひとつある。 今、キリュウと、離れることは、したくないという、気持ち。 ヘインは、開けた目を、まっすぐジュールズに向けた。 「申し出を受けよう。俺も共に、キリュウに、向き合わせてくれ」 ジュールズが、にかっと、笑う。 「おう!よろしくな!」 その、得意げな表情に、何か(たばか)られたのかと、ヘインは思った。 けれど、だからなんだというのだ。 疑問、とまでは、明確に感じない言葉が生じた瞬間、察した。 ジュールズは、自分の(えが)く答えを得たのだ。 それは、特別、小細工を必要としなかったけれど。 そう、小細工を必要としないと、ジュールズは、自分の読み取りが正しかったことを、得意に思っていたのだ。 つまり、自分とセイエンは、いや、ミナとデュッカも、そして、たぶん、イエヤ邸に、今()る、者たちも。 きっとみんな、キリュウのことを、放り出せはしないのだと。 「ふふっ。(たばか)られたようだな」 聞き付けたジュールズが、食事の皿を手に取りながら文句を言う。 「人聞き悪いなあ!」 「ははっ。すまん。しかし悪くない。こういう、繋がりも」 「うん!なんか、考えてみようぜ!レイネムもさ!」 「ん?そうだな。位置付けとしては、シュティンベルクに近いな」 「シュティンベルクか!」 「ああ。まあ、キリュウには、そこまで頼れないがな。それぞれ、得意なことが違うし、キリュウは特に、これから、成長という大きな変化があるからな」 「だな」 これで、キリュウの、当面の環境は整えられる。 あとはこれが、どんな影響を及ぼすのか。 観察して、見極めて。 1人の人を、育て上げるのだ。
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