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―休暇日Ⅴ 尽きせぬ興味―
騎士というのは、どれほど時を経ようと、いや、接する機会がなかったからこそ、その伝え聞いた話は、今を生きる獣たちにも、信用を持たれているようだった。
騎士への警戒と、そうでない、彩石選別師などへ表す不審の感情は、ただ信じないということと、疑いを持つことの違いを、人々に教えるようだった。
それにしては、近くにラフィが居るからか、見た目に似たユクトのことは、透虹石の鳥獣たちに通ずる力と見分けてもらえたところもあり、人の子、要するに庇護されるべき存在としても、大人たちとは違う扱いとなっているようだった。
一人前に仕事をしている自負があるので、見た目だけで子供扱いされることには、いくらか不満もあるのだが、距離を近付けてもらえることには、得をした気分がある。
「人の子よ、あちらにも飴玉があるぞ」
飴というものは、知らなかったのだが、合わせて真名も教えたので、その声には、存在を知った確かさがある。
ユクトは、ちょっと笑って、自分で取りなよ、と言ってしまう。
「さっきから教えてばかりじゃないか。一応、競争なんだよ」
「親しむための遊びとも聞いた。いいのだ、これだけあれば、しばらく楽しめるし、来なかった者らに分けられる」
磁竜のひとつであるという鉄竜メカニエのアバルヘイロは、所々の影に灰色が見える白色竜だ。
土を作ると、成分に鉄を構成する素材が多い。
鉄という存在を作るには、そのように意識する必要があるが、ほかの磁竜よりも、生成に苦労がない。
ただ、このような存在は、源始の祖であるアバルヘイロに特有の性質であり、子の世代から、血が薄れるにつれ、ほかと交ざって、鉄に限って生成技能が高いということは、なくなった。
けれども、容姿に関しては、残るところが多いので、それを指して、裔の者たちは、鉄竜メカニエと名乗るそうだ。
逆に、容姿には表れずとも、鉄竜としての能力の高い者らは、鉄竜アレッサンドロと名乗り、兄弟姉妹でも、その存在が違えば、名乗りの種が違う。
磁竜の島内では、そのように細分化されているが、ほかの島に行く時は、磁竜で統一している。
それほどに機会はないが、年に数度は、ほかの島に近付くので、その時に交流するのだ。
水竜島カサルシエラは、この地に固定されているが、多くの島が、浮遊しながら来てくれる。
「アバルヘイロ、その、メカニエと、アレッサンドロという名称は、どこからきているの?」
近くで遊戯に参加するテナが、このように、ちょくちょく質問を挟む。
騎士たちは、能力に合わせて、3人以上で活動場を分かれたが、ユクトとテナは、活動場の選択の時に互いに気付き、同じ所に行くかと、キリュウたちとも同じ、透明の空中陸地層、とでもしておくべきか、この活動場に来ていた。
「俺の息子たちの名だ。ほかの源始は、同じ鉄竜と番になったが、俺は汞竜の女を番としている。まあ、ほかの鉄竜よりも、俺が造られたのが早かったのもある。息子たちが生まれてから、俺と同じ種となる鉄竜を造って、息子たちが子を生せるようにしてくれた」
「え、あれ、じゃあ、息子さんの名を名乗って…冠して?るの?」
「うむ。俺が混ざってもいいだろう。ひとりはつまらん」
「え?いや、でも、厳密には…」
「細かいことを言うなよ、面倒くさい!ああ、難しいことを言う娘よな!」
「うぐ!すっ、すみませんねえ!細かくて!そういうこと、きちんとするのが好きなのよ!悪い!?」
「うお。威勢の良い娘よ…機嫌を直してくれ。難しいことは嫌いだが、お前には嫌われたくない」
「う!なっ!なによ、なんなの、いえ、別に嫌わないですけど!」
「そうか。ふふっ。赤くなったな。照れているのだろう。そうだろう」
「ううっ!なんですよお!からかわないでくださいい!」
恥ずかしさで、乗り物の中で蹲るテナを下方に見ながら、同じ仕様の乗り物で、深葉は辺りを見渡す。
地形としては、それほど珍しいものでもない。
深葉たちが根を下ろしていたコットンロットンモート・グォードには狭い範囲だったと言えるけれど、たまに連れて行ってもらったほかの島には、植物の無い地面も、起伏の激しい地形も、ちゃんとあった。
ただ、このような遊び場として利用されているのは、見たことがない。
やり方ひとつなのだなと、深葉は思った。
たったこれだけのことを、思い付くかどうかが、人という種が、動かない最大の陸地、大陸を与えられた理由…たぶん、その、ひとつなのだ。
ほかの理由は、今のところ思い付かないけれど。
二容姿の者とも違う。
こんなにも、人という種が違うのは。
わからない。
知りたい。
彼らとの違い。
彼らの為すこと、為したこと。
彼らが、打ち立てた、国というものを。
自分には存在しない感覚で。
自分が有する感覚で。
飴玉を味わう感覚だって、なんだって。
ここにあることは、ひとつひとつが、深葉には、未知のこと。
家の中から、窓枠に張り付いて眺めるのではなく。
扉から出て、体験する。
そんな、踏み出した一歩が感じさせている、これは、世界。
今、ここにある、確かな事象であり、存在。
自分の内側を広げてくれる、ものなのだ…。
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