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―休暇日Ⅵ 懐古と―
騎士たちが、なかなかの善戦を見せるので、ほかの生物たちも、競い合いの楽しさを知ったのか、段々と興奮が体の動きに現れるようになってきた。
「はっはあ!鍛練以外に、こんな遊びでも、楽しいじゃあないか!!」
皙煉騎士ディークが、高所から落下しながら、辺りを確認し、着地点を探す。
もちろん、飴玉の確認も忘れない。
なんとか、空中陸地層の活動場での初回締め切りに滑り込み、地形の変化に、思う様体を動かして、競争に参加中だ。
時折、竜の尻尾とか、大きな獣の牙が掠めて、ひやっとするのが、堪らなく楽しい。
ディークが、その役目を担っていた頃、同志として共に立った政王は、ネイとサイの父親だ。
双子の弟、前々代祭王を失ってから、今はどこの空の下に居ることやら。
「レダよ、こっちは、楽しいぞ…」
呟きが、風に乗って消える。
消えたように思う。
遠い空の向こうで、振り返った者がいたことを、ディークは知らない。
これからも、知ることはない。
ただ、今は。
楽しむ。
目の前にある、この、環境を。
「何を呆けてやがる、元白剱騎士がよお!」
不意の声に、閉じかけた目を見開く。
風の音と気配に、体を捻って衝突を回避する。
「っ!はあ!?攻撃するのか!破壊神ゼダン!?」
相手を見分けて、つい、現役時には避けていた呼称を吐き出してしまう。
しまったと思ったが、遅い。
これを言うと、調子に乗るから、嫌だったのだ。
「うふふふふう!お前の代まで語られているとは、ますます手を抜けねえぜ!」
「ちょ!待て!攻撃禁止だったろ!」
「攻撃ぃ?爺は足腰が弱くてなあ!支えが必要なのよ!」
言いながら、体当たりしてくる、その身のこなしのどこに不安があると言うのか!
「年寄りには手を差し伸べるのが騎士だろうが!逃げるなよお!」
「審判ん!!規則違反だ!取り締まれえ!」
大声で叫ぶと、どこから来たのか、近くに鳥が飛んできた。
緑色で透明の彩玉鳥だ。
「ピュイッ!審判鳥レディだよ!異能による攻撃があることを認められない!規則違反に非ず!遊戯続行!」
「わはははは!」
「なんつう大雑把!」
「審判鳥への侮辱は減点!飴玉1個没収!」
「ふああああっ!?」
あまりな対応に、沈着で知られたディークと言えど、動揺は隠せない。
「わはは!取り返せばいいだろお!ほれ!あっちまで遊んでくれよお!」
ゼダンの示す方を見て、ディークは方向転換する。
「くそっ!奪い合いなら良かったのに!」
「名案だ!今度やってやろうぜ!」
そんな言い合いをしながら。
口の端に笑みが浮かぶ。
そんな、青空の、下。
誰かの風が、吹き抜けていった。
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